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「娘は、ティアリーゼはいかが致しましたか? 不思議な知らせを受け陛下たちより先に早馬で帰路につきました所、途中で妻から娘が行方不明だという知らせを受け取りました。殿下に呼び出された後からとのことでしたが、どういうことかご存じないでしょうか?」
ある程度息を整えると一息に言い切る。
周囲の者達は一体どうなるのかと固唾を飲んで見守っていた。
ティアリーゼも、予定外の父の登場にどうしようかと少し戸惑う。
「……ティアリーゼは、嫉妬に狂いこのメラニーに毒を盛った罪で既に処刑した」
「は?」
フリッツの言葉が信じられなかったのだろう。
公爵も、周囲を見守っていた貴族たちも言葉を失った。
「……今、処刑したと申しましたか? 国王陛下のご確認も取らず、裁判すらもなく?」
否定の言葉を期待するように問いかける公爵に、フリッツは冷たい目を向けて「そうだ」と答える。
「呼び出したその日のうちに捕え、テシュール湖に沈めた」
「っ⁉」
フリッツの言葉にその場は騒然となった。
「テシュール湖に⁉」
「例え本当に毒を盛ったのだとしても、そのような処刑など!」
フリッツを非難する声が多いのも当然だ。
水死体は醜い。故に貴族女性の処刑としてはあってはならない処刑方だった。
裁判にもかけず、そのような方法で処刑したとなればもはや頭がおかしいというレベルだ。
(処刑のことまで口になさるとは思わなかったわ……)
頭がおかしいと誰もが思う行為だ。
湖に沈めたことは黙っているだろうと思っていたが……フリッツは本当に何を考えているのだろう。
「ティアリーゼ、そろそろ出た方がいいのではないか?」
そっと声を掛けられ、ハッとする。
「このままだとお前は本当に死んだことにされてしまうぞ」
「そう、ですわね。……行きます」
少々想定外もあったが、今は当初の目的通り冤罪を晴らすのが先だ。
ティアリーゼはストラのエスコートで、会場の中心へと足を進めた。
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