決着とはじまり

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「ごめんなさいお父様。私、捨てられて湖に沈められて……今まで貴族として責務を果たそうと努力していたことは何だったのかと絶望してしまったの」  そう……あのとき遠ざかる水面を見ながらティアリーゼは絶望していた。  だが、それを救いあげてくれたのが他の誰でもない推し神であるストラだ。 「でも、その絶望からも救いあげてくれたのがこの方だった」  今も寄り添ってくれているストラを見上げる。  無表情ながらも慈しむような優しい眼差しで自分を見下ろすストラに鼓動が早まった。  胸の奥から、泣きたくなるほど温かく優しい感情が溢れ出す。 「だから私、この方に嫁ぐために聖女を目指すと決めたの」 「……は?」  だが、返って来たのは理解していなさそうな声。  それは周囲の者達も同じだったようで、「どういうこと?」などといった言葉でザワザワし始める。  そんな中一番にハッキリと声を上げたのはフリッツだった。 「何を言うかと思えば聖女だと? 悪女のお前が聖女になど、笑わせてくれる」  ティアリーゼのは無実だと確かな証言があるというのに、未だに自分を悪女扱いするフリッツ。 「しかも理由がその男に嫁ぐため? 笑わせる。その男が何だというのだ。聖女でなければ妻になれないなど、神にでもなったつもりか?」 「ふふっ、本当に。頭のおかしな方なのね」  立ち上がったメラニーも加わり、嘲笑をストラに向ける。  知らないのだから仕方ないが、神に向かって嘲笑など……罰が当たらなければいいが。 「……ふむ、愚か者だとは思っていたがここまでとは」  ここに来て初めてストラが声を発した。  すると公爵が驚愕の表情を浮かべる。 「その声は、私に帰るよう呼び掛けてきた……」  目を見開き、「まさか」と掠れた声を出す公爵にストラは軽く口角を上げた。 「そうだな、私が呼んだ。……いずれ義理の父となるのだ。挨拶はしておこうと思ったのでな」 「ストラ様、まさかそのためだけに父を?」 「ああ、そうだが?」  挨拶したいがために片道二週間強の道のりを強行させたのか。  ある意味神らしい彼にティアリーゼは苦笑いを浮かべた。 「ストラ様だと⁉」  ストラの名を聞き、公爵は即座に跪き頭を下げる。  あまり見ない父の慌てぶりにティアリーゼは目を瞬くが、ストラを神と理解したが故の行動だと納得する。  ストラはマイナーな神だが、娘がずっと推してきた神だ。  父がその名を知らぬということはないだろう。 「公爵? 一体何を……」  公爵ともあろう者が震え跪く姿を見て、フリッツやメラニー、周囲の面々も戸惑いを見せる。  その様子を見たストラは、「ふむ」と思案顔で口を開いた。
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