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「ここはひとつ自己紹介しておくとするか。お前が誰の妻になるのか、知らしめておかねばならぬしな」
「え?」
一体何をするのだろうとストラに視線を戻すと、彼はスッと片腕を上げた。
「ピュイ!」
そこに外にいたはずのピューラが飛んで来て止まり、共に炎に包まれる。
本物の炎ではないのか熱さは感じない。
炎が落ち着き、真っ先に現れたのはピューラだ。
美しい尾羽を持つ鳥の姿になったピューラを見て、あの小鳥こそがストラの神獣だったのだと知った。
(このように美しく荘厳な鳥だったのね……名前、可愛らし過ぎたかしら?)
などと考えているとストラも本来の姿となり現れる。
ルビーのような赤い瞳。
黒を基調にした、フェニックスの尾羽が描かれた衣服。
そして何より、今まで抑えていた神力を隠すことなく解放した。
『っ⁉』
直後、会場にいたティアリーゼ以外全ての者が膝をつき頭を垂れる。
神しか持ち得ぬ神力。
その力を感じたことが無くとも、誰もが瞬時に理解したのだ。
このお方は神なのだ、と。
「ふむ、このような反応も久しぶりだな」
跪く貴族たちの様子に驚くこともせず、ストラはただ軽く見渡す。
そして抑揚のない声を発した。
「私は火の神・フォイエルが眷属、軍神ストラ。……さて、先程私のことを頭がおかしいなどとのたまっていたが……」
「もっ、申し訳ございません! 貴方様が神だとは気付かなかったのです!」
床に額を擦り付けるほど頭を下げガクガクと震えるメラニー。
隣のフリッツも同様に震えていた。
「そうか。……まあ、此度の不敬は許してやろう。だが、取り調べは受けるのだな。ティアリーゼには必ず聖女となってもらわねば……冤罪など被せられたままでは困る」
「っ……は、い……」
苦しげに了承の言葉を口にしたメラニーは後はただ震えるだけ。
フリッツの方は声を発することすら出来ないようだった。
「……それと」
フリッツ達への言葉が終わると、今度は公爵へと視線を向ける。
「私はこのティアリーゼを妻として望んでいるのだが、父である其方は反対なのだろうか?」
「いえ! 神に見初められたのならば反対する理由などございません!」
ティアリーゼが神官になったことには多少思う所がありそうだが、神の望みに否を唱えることはしないらしかった。
「そうか、それは良かった」
淡々と告げたストラはティアリーゼの小さな手を取る。
そして優しい声を彼女に掛けた。
「これで一先ずは一件落着ではないか?」
「そう、ですわね……」
つい先程までの問答は何だったのかと思うほどすんなりと纏まってしまった。
ストラがいれば全て事足りていたのではないかと思うと少し複雑ではある。
だが、あまり神の手を煩わせるわけにもいかないのでやはりこれで良かったのかも知れない。
神の御前では誰しも滑稽になってしまうのかも知れないと、ティアリーゼは小さく笑った。
「ふふっ……ありがとうございます、ストラ様。これでやっと心置きなく聖女を目指せます」
感謝の言葉を述べると、ストラはティアリーゼだけに見せる柔らかな笑みを浮かべ告げる。
「ああ、心待ちにしている」
と。
END
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