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嘘をつくのが、子供の頃から得意だった。
それは時に、自分自身さえも騙すことができるほどに。
以前、私の性質を見抜き「詐欺師」と呼んだ女がいたが、なるほど確かにと、自分でも納得したものだ。
おそらく両親は私のことを父譲りの堅物だと思っていただろう。しかし一歩家から出た私は社交的なお調子者であり、たくさんの友人を持ち教師からの覚えも良く、休み時間には図書館に引きこもっているような学生であっても、いわゆるスクールカーストでは常に上位に属していた。
その性質は社会に出てからも変わらず、全く関心のない物事にも積極的に取り組み、人脈を広げ、時にはライバルの足元をすくいながらも敵を作ることなく順調に出世していった。
酒を飲むことができないのに、飲み会にもすべて参加した。時折、新しく知り合った人などに「酒を飲めないのに飲み会に参加して楽しいのか?」と問われることもあったが、決まって同僚や上司が「こいつは素面でも酔っぱらいのテンションについていけるから、問題ないんだ」と嬉しげに言う。
そしてその通り私は常に道化を演じ、ぬかりなく彼らの「隙」を観察した。
……。
社会に出てからも友人はたくさんできたが、しかしついに親友と呼べるものはできなかった。
おそらく私には、人として何か欠けたものがあるのだろう。
いや、しかしそんなことはもうどうでもいいのだ。
そういったものを全て捨てて、私は自由になるためここへ越して来たのだから。
とりいそぎメインで使うであろう場所の掃除を済ませ、生ぬるいペットボトルのコーヒーのふたを開ける。
床に放り投げっぱなしだったスマホの着信履歴を見て、私は深く溜息をついた。
気が進まないまま折り返すと、2コール目を待たずに応答があった。
「母さん?」
「ああ耕ちゃん! あなた大丈夫なの? 何回も電話したのに――」
「ごめんごめん、近所の人に挨拶したり、家の掃除をしたりしてたから、気がつかなかったんだよ」
「そうなの? でもあなた、急に仕事をやめたりして――」
「金の心配ならいらないよ」
「せっかく出世したのに、なんで――」
「ここはすごくいいところだよ。空気も綺麗だし、星がよく見えるんだ。そのうち母さんも泊まりに来てよ。ああそうだ、菜々子のところの子供たちと一緒に来たら? 庭も手入れしておくから、みんなでバーベキューでもしよう。家は広いからさ、みんなで来ても大丈夫だよ」
「でも――」
「そうそう、父さんに俺が今度リフォームを手伝ってって言ってたって伝えといて。じゃあ、今日は色々やって疲れたからもう切るよ」
「耕――」
他にも元同僚やらからいくつかのメッセージが届いていたが、適当にのどかな村の風景写真を送りつけて、その日は早々に眠りについた。
いずれ、電話の番号を変えるとしよう。
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