ないものに惹かれる人間の性

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ことの発端は、数日前の放課後に起こった。 わたしが教室でひとり日誌を書いていると、既に帰ったはずのあの男……御門京輔……が突然現れた。 あのさ、とわたしに近づいてきたかと思えば、すきなんだけどとぽつりと一言。 何を言われたのか、瞬時に理解できず固まっていると、追い打ちをかけるように、おれのものになれよと言った。 「……え、むり、です」 「は?」 咄嗟に出たわたしの言葉に、不意を突かれたらしく、動きを止めた彼を見て、わたしはそそくさと教室を出た。 翌日、学校へ行くと、わたしを待ち伏せする複数人の女子がいた。それで、前日の放課後のできごとを目撃されてしまったのだと察する。 内容こそ聞かれてはいなかったようで安堵したが、クラスの女子たちによるは相当なものだった。 だから、わたしから近づくことはないし、向こうにも近づいてきて欲しくない。 でも、わたしが突き放そうとすればするほど、彼は構う回数が増えている気がする。 “本当は、嫌がってないくせに” そうよ。 わたしよりも顔が良くて、要領も良くて、ひとから好かれやすいタイプの男に言い寄られて、いい気分にならないひとなんて、きっといない。 それがわかってるから、イヤなの。
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