ないものに惹かれる人間の性

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あーあ。 話しかけないでと言っておきながら、結局たくさん会話をしてしまった気がする。 先のやりとりを目撃した女子がいて、明日またされるのではと怯えながら夜を過ごしたが、翌朝、教室でわたしを待ち受けていたのは予想外の光景だった。 いつもはたいていSHR開始のギリギリにしかいない隣の席の男が、今日に限っているではないか。 しかも、その周りに女子が何人か集まっていて、和気あいあいと話している。 「ねー、御門くん、それなにー?」 「うーん? アロマスプレー?」 自分は気にしない、という体で席に着いたものの、アロマスプレーという単語に思わず反応してしまう。女子が立っているからよく見えないが、おそらく昨日わたしが彼にあげたアロマスプレーを見せているのだろう。 「レモングラス? の匂いなんだってさ。虫除けの効果があるらしいから使ってる」 「へぇ。御門くん詳しいんだね! アロマ使ってるとかなんかかわいい」 「ね。アロマもこの匂いもかわいいよね」 だって。 彼の言ってることの本意を理解できるのは、たぶんきっとわたしだけ。 でも、わたしに向けて発せられた言葉のはずなのに、他人事のように感じてしまうのはなぜ?
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