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1 デパートの食器売り場で
『粉引(こびき)茶碗』というのだろうか
乳白色のなめらかな肌に惹かれて
俺はふと、足を止めた。
その抹茶茶碗は
小ぶりだが、ぽってりとした下膨れ
手に取ると
男としては大きくない俺の掌に
すっぽりおさまった。
あっさりした花の柄もいい。
「作家もの」と言うほどでもないのだろう
値段も手頃だ。
(だが、一人暮らしの部屋に
茶碗など買って帰っても
お茶など淹れた試しがないじゃないか)
そう思い、一旦売場を離れたが
やはり未練があって戻ってくると
茶碗の前に女が1人、ポツリと立っていた。
似てる。
思わず
エスカレーターの影に身を隠し
盗み見る。
俯いた横向きの頬の線
肩から頭の形、やはり似てる
他人の空似だろうか…
思い出して、首筋にほくろを探した。
有った。
あの、特徴的な楕円形のほくろ
夏歌(なつか)に違いない。
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