2 白い花の思い出

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付き合って翌年の夏。 彼女の住むアパートの周りに 白いムクゲが鬱蒼と茂った。 「種が飛んで芽が出ても 大家さんがちっとも抜かないから どんどん増えるの」 「この木、そんなに種が飛ぶの?」 「ええ、花数も多いし 種が落ちるとしっかり根付くの 繁殖力が強いのね 今年は一層茂ってるわ」 夏歌の折った花に顔を近づけると 花らしい香りが無い。 訝しんで突き出した花芯に もう一度鼻を近づけたが ただ、草のような 素っ気ない香りがするばかりだ。 「意外としぶとい花だな」 夏歌はクスっと笑う。 「そんな言い方、可哀想だわ それしか生き残る道がないのよ 薔薇や桜みたいに 大切に植えられたり 世話されたりしないもの」 「しかし… こういっぱい咲くと煩(うるさ)いな」 そう言った俺の口調は 冷たかったかもしれない。 その頃、俺は夏歌にだいぶ飽きて 部屋に来ても無言でテレビ観ていたり 外食にも誘わず 夏歌が用意したものを食べ 気が向いたら抱いて、寝た。 彼女がおとなしいのを幸いに 忙しい時は忘れたように連絡もしなかった。 それでも彼女は何も言わなかった。 それどころか、忙しい俺を気遣い 行けば俺の好物を準備した。 食べ終わって テレビを見てる俺の後ろで ムクゲを飾ったテーブルに1人で座り 俺が機嫌がいい時に買ってくるクッキーを 嬉しそうに食べたりした。 それは 俺の家の近くの お菓子工場で買ってくるもので 有名洋菓子店のクッキーの 製造過程で割れたものを 割安品として週末に売り出すのだった。
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