2 昔の女の今の姿

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2 昔の女の今の姿

俺は、茶碗の包みをカバンにしまい 会社に戻るため デパートの地下からメトロの駅に入った。 単調なデスクワークに疲れたら 今日のように 取引のある百貨店周りをしたり 都会の人群に紛れて 時間を潰すのが最近の習慣だ。 エスカレーターに立ち 深い、深い、都会の地下に 吸い込まれていく人の列に加わる。 すると数人先に 先ほど、食器売り場で見送った 夏歌の後姿があるのに気づいた。 彼女も地下鉄に乗るのだろうか また、会うとは 偶然の悪戯が過ぎる。 記憶の底から 忽然と目に前に現れた彼女は こうして改めて見ると 昔よりずっと魅力的に見えた。 あの頃の夏歌は 確かに、今より若さはあったが どこか影の薄い女だった。 40歳の夏歌は 昔の彼女に欠けていた自信というものを ゆったりと身に纏っている。 それに引き換え、俺はどうだ? エスカレーターの脇のガラスに映る 自分の姿を見た。 会社では社員の服装がこの数年で ずっとカジュアルになり スーツ派は一定の年齢以上のものになった。 俺もスーツは着なくなって久しい。 特に夏場は、 ソフトジャケットにストレッチの効くパンツ お客に会うこともほぼ無いので 襟なしのシャツ。 こういう格好で様(サマ)になるのは 実は、なかなか難しい。 俺のソフトジャケットは 吊るしの安物で体に合っていなかったし インナーのTシャツも 運動を習慣にしていない身体で着ると なんとなく貧乏くさい。 ブランド物のネクタイや アイロンの効いたワイシャツと違って 誤魔化しが効かない。 髪型は流行を追って バーバースタイルにしているが こうして改めて見ると 弛み始めた肌にチグハグのような気がした。 俺はマスクをかけて、下を向いた。
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