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「そういえば、龍神様がくださる幸福ってなんですか?」
「五穀豊穣、子孫繁栄だな。
田畑の状態を適切に保ち。
人間たちの婚姻も上手く進むよう、良い縁を授けよう」
「あ、私は結構です」
「何故だ」
いえ、なんとなく、とヒナが言うと、龍神は、
「心配せずとも、無礼なお前に人間の男をあてがうつもりはなかった」
相手の男が可哀想だろう、と言い出す。
「……一生、私の世話でもしておれ」
「……そうします」
とヒナは笑った。
偽の雨が上がった空。
朝焼けにたなびく雲に紛れるように龍神は泳ぐ。
下から、何処かの村の子が空を指差し、言うのが聞こえてきた。
「あ、彩雲……」
「違いますよ。
朝日を浴びて、虹色に輝いているけど、あれは龍……
龍神様ですよっ」
と側にいた母親が驚く。
ヒナと龍神様は、こちらを指差す親子を見下ろすと、ふたり、共に微笑んだ――。
完
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