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「……俺のせいですか?」
おずおずと問われ、返答に困る。
なんだよその顔。
まるで自分のせいだったら嫌だみたいな。
そうだよ。律のせいだよ。
そうやって暴露したい。
僕はあの夏から離れられずに先に進めないでいると。
じっと見つめていると、すぐにぷいっと視線を逸らされる。
猫かキミは。
たしか猫は、目と目が合うと喧嘩の合図だと聞いたことがある。敵意がないと相手に分からせるために目を逸らすという行動をするらしい。
だが律の場合はどうなんだろう。
僕とは気まずいのかな、と思ってしまう。
「別に、律のせいじゃないよ。5年もあれば、人の考えだって変わるし。僕がこんな風になってたって知って軽蔑した?」
「いいえ。ただ、気になっただけです」
いつの間にか互いのカップは空になっていた。
僕は2人分のカップを持ってキッチンへ入り、シンクへ置いた。
水滴や汚れが1つもないキッチンの隅に、ビニール袋が置いてあった。
持ち手のところが縛ってあって中は見えないが、形からしてカップ麺や惣菜の空き容器と割り箸だった。
キッチンに汚れ1つないのは、もしかしたら自炊をしないことの裏返しなのかも。
洗面所に付いていくと、新品の歯ブラシを渡された。
言われるがままに歯磨きをして、清潔なタオルで口を拭う。
「千紘はベッドで寝て」
案内された部屋は寝室らしく、ベッドの他に服がかかった什器やチェストが置いてあった。
「律はどこで寝るの?」
「俺はソファーで寝ます」
「えっ、いいよ、どう考えても僕がソファーだろ」
「あんなところで寝れるんですか。潔癖なんでしょう」
「律のだったら全然平気だし」
「……」
「それか、ベッドで一緒に寝る?」
驚いたように目を見開いて固まった律は、すぐに険しい表情になって前髪をかきあげた。
「馬鹿ですね」
「な、何……」
次の瞬間、僕の体がふわりと浮く。
律は僕を軽々と抱き抱え、肩に担いでしまった。
「わ、わ、落ち……っ」
見下ろす床があまりに遠くて、ヒュッとすくみ上がった。
反射的に律の服をギュッと掴んでしがみつく。
広い背中と律の体温。
久しぶりに触れられたその手のぬくもり。
うわ────……。
頭がフワフワとした。
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