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僕は小3の終わり頃から塾へ通いだした。
けれどもともと、勉強は得意ではなかったので、成績はレベルの低いクラスの最下位だった。
僕よりも親が必死になっていた。
どうすれば成績が上がるのか、どこで兄とは差が付いてしまったのか、毎日頭を悩ませていた。
そんな中、毎年夏休みに律とプールへ行くのが恒例になっていた。
律が急に「今日はこれからプールです」と誘うのだ。
その日だけは、親は笑顔で「行ってらっしゃい」と言う。
開放感から、僕は毎年はしゃいでしまう。
それは僕が中1、律が高3の夏まで続いた。
結局、あんなに頑張って勉強したのに中学受験は失敗し、僕は公立中学へ通っていた。
後ろめたさから、高校はいい所へ行こうと誓い、また塾通いの日々が続いていた。
「勉強、大変なんですか?」
夕方、電車に揺られながら律が言う。
1日、その話題には互いに触れなかったが、現実に戻っていく電車が嫌で、「明日から勉強頑張らないとなぁ」と僕が漏らしたから、心配したのだろう。
「ちょっとね。ていうかりっちゃんの方が大変じゃん! こんな大事な時期に遊んじゃったけど、大丈夫なの?」
あまり深く掘り下げないで欲しかったので、話の矛先を律に向けると、律はちょっと困り顔で笑う。
「来年の春に廃園になるから、行けるうちは行っておこうと思って」
「え? あのプール、無くなっちゃうの?」
初耳だった。
それは律のお父さんから聞いた話で、まだ公にはなっていないらしい。
無くなるなんて信じられなかった。
いつ行っても人が多くて賑わっていたのに。
「じゃあ、次の夏はどこのプールへ行こうか」
律とずっと通い続けてきた場所が無くなるのは寂しいが、思い出が無くなる訳じゃない。
また新しい思い出を作っていけばいいんだ。
「うーん……来年は、行けるか微妙」
だが律の返事はいまいちだった。
僕と律の温度差に違和感を感じた。
律の憂いある横顔を見て、来年はきっとどこにも誘ってくれないのだろうと予感した。
予感は的中して、中2の夏休みも、中3の夏休みも誘われなかった。
大学生になったのだから忙しいのだとか、もう僕と2人でプールって年齢でもないのだとか、色々言い訳を考えて自分に都合よく処理をして、傷つかないようにした。
実は僕の親から「夏休みは集中して勉強させたいから、もう誘わないで」と打診を受けていたらしいとじいちゃんから聞いたのは、これからもっと後の話だ。
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