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「モカくんはフリーターだっけ?」
「はい」
本当は都内の学校に通う大学3年生だ。
僕の「モカ」というハンドルネームは受験時に服用していた睡眠改善薬から取った。
眠気覚ましによく飲んだものだ。
モカで通したかったのに「本名教えて?」と優しく聞かれて、反射的に「あ、千紘です」とバカ正直に答えてしまって後悔した。
なるべく身バレしたくないのに。
「千紘って呼んでもいい?」
「あぁはい、もちろん」
「ふふ、なんだか君とは初めて会った気がしないな」
「ははは、そうですかー?」
若干居心地の悪さを感じつつも愛想笑いで乗り切る。
まぁでも、この人と疑似恋愛しているつもりで奉仕しさえすれば、お金が取り戻せるんだ。
簡単だ。受験よりも簡単だ。
僕はただ聞き役に徹して、介護をするつもりで臨めば問題なさそうだ。
優しそうな人だし、何も心配はない。
そう思ったのもつかの間、ムサシさんの足が小さな水溜りにはまった。
バシャ、と新品に近い黒の革靴に泥がはねたのを見たムサシさんは、一気に顔をぐしゃりと歪めた。
「クソッなんだよ」
小さく舌打ちした音が聞こえて、僕は唇を真一文字に結ぶ。
えっと、この人は優しいはず、ですよね。
自分に言い聞かせていた時、ふと彼の持っている紙袋の中身が目の端に映った。
見間違いかと思い、もう一度目を凝らしてみる。
歩きながら僕はそれに釘付けになった。
ソレは間違いなく大人の玩具だった。
ピンク色をしたバイブが顔をのぞかせている。
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