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 商品券ももらった森下くんは上機嫌で壇上からおりて、真っ直ぐに僕のところにやってきた。 「いやー、まさか本当に賞取れちゃうだなんてなぁ」  わざとらしく頭を掻く君を目の前にして、何も言葉が出てこない。  今日は僕は仕事が休みだ。たまに外に出て休憩を入れつつも、ほとんどの出場者の演技を見ることができた。  確かに、森下くんは抜群に上手だった。  声の出し方、表情、気遣い、本人も言っていた通り緊張感は伝わってきたが、他の部分でカバーできていたので減点されなかったのだろう。僕が審査員だったら、好きだっていう特別感情を抜かしても満点を上げていた。 「凄いですねー森下さん! 俺も森下さんの見たかったなぁ」  隣に座っている八代くんは午前中に演技を終え、そのまま店に戻ったので他の出場者の演技は見られなかった。  そんな八代くんだって、ファッション物販部門で五位を獲得した。店長である自分もちょっと誇らしい。 「八代くんもお疲れ様ー。俺も八代くんの見たかったなぁ。超緊張したよね」 「はい。ステージの上立つと、頭真っ白になっちゃって。もう二度とやりたくないです!」  ははは、と笑い合う二人を見ないようにして、遠くに視線を飛ばす。  なぜ僕は、あんな約束を…。  今から夏休みが憂鬱でしょうがない。  すべての部門の結果発表が終わり、解散となった。  ちょうど目の前を、森下くんのよりも少し大きめなトロフィーを持った人が通り過ぎようとしたので声を掛けてみた。 「大沢(おおさわ)店長。優勝おめでとうございます」 「あぁ、どうも。ありがとうございます」  インディゴブルーの太めのデニムを見事に着こなしている大沢店長は僕を振り返って笑った。  大沢さんは三階にあるデニムショップの店員で、春の店長会で僕に席を譲ってくれたのだ。それから何度か店を覗きにいって、話すようになった。  大沢店長は恥ずかしそうに持っていたトロフィーを隠した。 「本当は自分が出る予定では無かったんですがね。他の社員が本社に研修期間中でして、仕方なく」 「いえいえ、誰でも出場可能ですし。拝見してましたけどお見事でしたよ」 「見られてたんですか、なんだか照れますね」 「今日は仕事休みにしたので」  大沢店長はステージ上ではジェスチャーも多く饒舌に話していたけど、今はあまり大きな動作はしない。演技中も良かったけれど、僕はこっちの方が落ち着いて好きだ。  それをそのまま伝えると、ちょっと大袈裟にやり過ぎました、と笑ったのでつられて笑った。  ではまた、と言って大沢店長は去っていく。  肩くらいの髪を後ろで一つにまとめているのもおしゃれだなぁとぼーっと見ていたら、森下くんが僕を見ているのに気が付いた。 「店長。今の人って」 「あぁ、デニムショップの店長ですよ。たまに買いに行っていて」 「ふぅん。仲いいんだね」  にやっとされたので、もしや、と思った。  大沢店長は休みの日はジムに通っているらしく、首元や腕がけっこうしっかりしている。強靭な肉体、とまではいかないが、頼り甲斐のある体つきはしているので、僕が彼に惚れていると勘違いしているんじゃないだろうか。  八代くんがいる手前、この場で聞き出すことは不可能だが。 「森下さん、商品券っていくら入ってるんですか」  八代くんは、ワクワクした様子で森下くんに問う。  森下くんが貰った封筒を開けると、中から5千円分の商品券が出てきた。 「わー、羨ましいっす。それ、SC内だったらどこでも使えるんですよね」 「え、そうなの? じゃあ俺、八代くんたちの店でバッグ買おうかな。旅行に使えそうなバッグって置いてる?」 「はい、ボストンバッグとかバックパックとかありますけど。旅行行くんすか?」 「へへ。店長と一緒に、一泊旅行するんだ」 「えぇーそうなんですか? いいなぁ~」  どうなる、僕の夏休み。  今からこんなに胸をドキドキさせているようでは先が思いやられる。
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