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息を吸い込んだまま、しばらく吐き出すのを忘れた。
心臓がギュンと鷲掴みされたように痛くなる。
まるで冷水を浴びせられた気分。些細なイタズラがバレて親に問い詰められている子供の気持ちだ。
うそ、絶対にバレてないと思っていたのに、バレてたの?
「ラーメン屋でも俺の事見てたよね? さっき言おうとして忘れてたけど。俺の事、なんかチラチラ見てるなぁって前から思ってた」
あぁそうだ、さっきラーメン屋で彼が何かを言いかけていたけど……この事か。
しかも、前から思ってただと?
あぁ、逃げ出したい。今すぐここから。
何かいい言い訳を思い付かないかと思うが、焦ると余計にいい言葉が見つからない。
もうそっとしておいて欲しいのに、森下くんは構わず話を続ける。
「店長もこういう仕事してるから分かると思うけど、お客さんの視線を常に気にしちゃうんだよね。今何を求めてるのか、ちょっとした仕草からでも見抜きたいっていうかね」
分かるよ。僕だって店頭に立つ時は、お客さんに話しかけるタイミングとか気を遣ってる。
けれど威圧感を与えてしまうとダメだから、その人のペースを乱さないように見守る。
だからこっそりと観察するのは慣れていると思っていたのに、まさかばっちりとバレていたなんて。
僕は何かいい逃げ道は無いかと、森下くんの着ているボートネックのボーダーシャツに視線を向けた。
肩と肘の間くらいにブランドのロゴが入っているのを見て、咄嗟に思い付いた事を口走る。
「セントジェームス!」
「……ん? セント?」
僕がそのロゴを指さすと、森下くんもキョトンとしながらそこをじっと見た。
「そのブランド、セントジェームスって言うんです。“Ne de la mer”って書いてありますよね。それって、海から生まれたって意味なんですよ。昔は漁師や船乗り達の作業着だったみたいです。色も豊富で着れば着るほど肌に馴染みますし、そのブランド昔から好きなんです。実はブラックを持ってるんですが、そういうブルーも爽やかでいいなぁと思っていて」
「へぇ、そうなんだ! 確かにずっと使ってるけど全然へたれないし、長持ちしてるよ。店はブルーで統一してるから何色もあるなんて知らなかった。どこのブランドかなんて気にした事無かったし、さすが店長、目の付け所が違うね~」
だから見てたのかぁと納得したように、自分の着ているボーダーシャツを隅々まで見ている森下くんを見て、ホッとする。
僕も、それがセントジェームスだってさっき気付いたし、実は一枚も持ってない。
ド定番のボーダー服を着てくれていて良かった。
君をよく見ているのは服のせいだって、きっと納得してくれただろう。
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