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「じゃあ今度うちの店長に言ってみようかな。たまには違う色も着てみたいって」
そう言うから、森下くんのボーダーの服をほかの色に変換してみる。
確か出している色は、定番の白黒やレッド、ブラウン、カーキ、ネイビー……
けれどやっぱり、アクアブルーが一番似合う気がした。
その明るめの金髪に近いような茶髪にも合っているし、爽やかさが際立つ。
そのくらいは正直に言ってもバチは当たらないだろう。
「森下くんは、ブルーのボーダーが一番似合うと思いますよ」
「え、そう?」
「肌が色白でブルーベースですし爽やかに見えます。あのお店は照明が生成りがかっているから、ネイビーやカーキだと顔が少々くすんで見えてしまうかもしれません」
「……店長って、なんかほんとにアパレルの店長だね」
「ふふ。なんですかそれ」
「……店長、ちょっとお願いがあるんだけど」
森下くんは良いアイデアを思い付いたような顔をして、新たな缶ビールのプルトップを上げた。
「今度、俺とデートしてよ」
「……デート?」
ツキン、と胸に針が刺さったように痛くなり、こっそりとテレビ台の脇に置いてある金の髪留めを見る。
デートなんて、彼女と行けばいいじゃないですか。
誘ってくれているのはものすごく嬉しいけど、せめてあの髪留めを見つける前に言ってくれてたら更に良かったのになぁ。
「デートって、どこに行くんですか?」
「都内の方に出て買い物しようよ。そこで店長に選んで欲しいな、俺に似合う服。あと映画でも観ない? 俺、今観たい映画があるんだー」
森下くんはおもむろに、スマホの画面をこちらに向けて動画を見せてくる。
その映画の予告編だ。
なるほど、たぶんそうかなと思ったけど、MARVEL作品の人気アクションシリーズの続編だ。
「僕はいいですけど……でも」
「本当? じゃあ早めに行こうよ。店長も平日休みだよね? 都合いい日ある?」
でも、の後に『彼女さんと行かなくていいんですか』と続けようと思ったのに、森下くんの明るい声にかき消されてしまう。
もう一度言い直すのもはばかられて、スマホのスケジュールを確認する。
ちょうど一週間後がお互い空いていたので、その日に行く約束をした。
「じゃあお昼前にでも待ち合わせて行こうか。楽しみ。休みの日は最近寝てばっかりだったから、久々に出かけるとなるとワクワクするね」
──彼女さんは、どこに住んでるんですか。
──僕の選んであげた服を着て、彼女さんとデートするんですか。
どれも口にする勇気が出せずに、偽りの笑いでその場を誤魔化した。
まぁ、いっか。
大事な恋人がいるって分かってる方が、これ以上好きになっちゃいけないって押し止められるし。
あの髪留めは、見なかった事にしよう。
ここに来る前は泊まってしまおうかと目論んでいたが、やっぱり悪いなと思ってきたので──髪留めを見なかったらそうは思わなかったかもしれないが──帰ることにした。
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