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「あの……本当なんですか? 僕が好きって言うのは……」
いいと思える女の人がたまたま今いなくて、たまたま最近仲良くなった僕を好きだって、勘違いしている可能性はある。
性別を超えているのは、ちょっと不思議だけど。
「うん。店長から自分はゲイだって聞かされた時、嬉しかったんだよね。自分も好きになってもらえる可能性があるかもって」
「あぁ……それは、言っていましたね」
「結局、店長の好きなタイプには俺は当てはまってないみたいだけど」
クスクスと笑われ、僕も苦笑う。
今更、君がタイプとは言えない。
「好きなタイプは俺みたいなタイプじゃないって言われた時も、ちょっと落ち込んだんだよね。てことは俺、店長の好きなタイプに当てはまりたかったってわけで」
「……はぁ」
「えっ?! ここまで言ってもまだ分かんないの?! 店長、どんだけ鈍いんだよ!」
「えっ……いや、分かり、ますよ……」
と言いつつ、やっぱり他人事みたいでまるでピンと来ない。
僕はちゃんと、森下くんと両想いだったのか。
だけど僕の心はまだまだ、手を差し伸べていない。
いつかきっと、僕とこんな会話をしたことを後悔する時がくる。
好きだから好きだって言えない。彼の幸せを願うと。
「店長はその……俺のことは?」
「……」
「キスはしてくれたんだから、嫌いじゃないよね?」
「あれは君が……無理やり……」
「えっ、まだそんなこと言うの?」
森下くんの手が、僕の後頭部をぐいと引き寄せた。頭が枕から落ちて眼鏡が少しズレるけれど、石になったかのように動けない。
「ほら、逃げないじゃん」
「……」
「そんな風に言ってると、もう1回しちゃうよ?」
「い……や、です」
口ではそんなこと言っておいて、僕はしっかりと瞼を閉じ、降りてきた唇を受け止めた。
欲しがるみたいに自ら唇の力を緩めれば、すかさず舌が潜り込んでくる。
「……っん」
角度を変えられた時に、意図せず喉が鳴ってしまったのがまずかった。
その零れた声をきっかけに、明らかに森下くんの力強さが変わったのだ。
僕の頭を痛いくらいに引き寄せ、より深いところまで舌を沈みこませてきた。
風呂場でのキスよりもさらに深く、深く。深海へ沈み込むみたいに。
息が上がって頭がぼうっとする。
体の中心がぎゅっとなって、どうしたらいいのか分からなくなった。
「……は……っ」
ようやく解放されたが、散々だった。
顔は燃えるように熱いし、眼鏡はズレているし、お腹の奥は痛いくらいに疼いている。
そんな僕をじっと見下ろしている彼の視線に、恥ずかしくて耐えきれない。
「ほら。全然、逃げない」
掛けていた眼鏡を外されて、僕は激しく首を横に振った。
「い、いやですっ!」
「本当に嫌だったら、俺のこと蹴飛ばしていいよ」
言われながら、掛け布団を捲られてしまう。
着ている浴衣は形が崩れ、合わせ目が大きく開いて太ももから下が丸見えになっていた。
布を引っ張るも、その手を捉えられてしまう。
「そんな姿も可愛いって思えるってことは、俺ちゃんと店長のことが好きなんだよ」
そんな姿って?! どんな?!
こんな、情けない姿が可愛いだって?!
森下くんはまた、僕にキスをする。
緊張のあまり、手足が震え出した。怖い。けれど、やめて欲しくない。不安と期待をいり混じらせながらキスをしていると、眦に自然と涙が滲んできた。
「……っあ」
足を動かすと、足の間が彼の膝に意図せず当たってしまって変な声が漏れた。
恥ずかしい。そこはもう大変なことになっている。
森下くんの手が、そちらへ向かう。
浴衣の上からその膨らみを撫でられて、ビクンと体が跳ねた。
「や……ダメです……っ」
「でも、すごく反応してる」
「あ……っそん、な……こと……っん……ッ」
上下に撫でさすられると、ビリビリとした快感が脳天まで駆け抜けた。すごく気持ちがいい。森下くんの手によって、僕は蕩かされていく。
「やっぱり、ここでやめる?」
瞼を持ち上げると、目を細める森下くんがいた。
ひどい。意地悪。
こんな風にさせておいて、途中でやめられるわけがないと、男ならば分かっているのに、わざと。
僕は両目を手で覆った。
「やめ、ないで……」
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