【4】

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「あの……本当なんですか? 僕が好きって言うのは……」  いいと思える女の人がたまたま今いなくて、たまたま最近仲良くなった僕を好きだって、勘違いしている可能性はある。  性別を超えているのは、ちょっと不思議だけど。 「うん。店長から自分はゲイだって聞かされた時、嬉しかったんだよね。自分も好きになってもらえる可能性があるかもって」 「あぁ……それは、言っていましたね」 「結局、店長の好きなタイプには俺は当てはまってないみたいだけど」  クスクスと笑われ、僕も苦笑う。  今更、君がタイプとは言えない。 「好きなタイプは俺みたいなタイプじゃないって言われた時も、ちょっと落ち込んだんだよね。てことは俺、店長の好きなタイプに当てはまりたかったってわけで」 「……はぁ」 「えっ?! ここまで言ってもまだ分かんないの?! 店長、どんだけ鈍いんだよ!」 「えっ……いや、分かり、ますよ……」  と言いつつ、やっぱり他人事みたいでまるでピンと来ない。  僕はちゃんと、森下くんと両想いだったのか。  だけど僕の心はまだまだ、手を差し伸べていない。  いつかきっと、僕とこんな会話をしたことを後悔する時がくる。  好きだから好きだって言えない。彼の幸せを願うと。 「店長はその……俺のことは?」 「……」 「キスはしてくれたんだから、嫌いじゃないよね?」 「あれは君が……無理やり……」 「えっ、まだそんなこと言うの?」  森下くんの手が、僕の後頭部をぐいと引き寄せた。頭が枕から落ちて眼鏡が少しズレるけれど、石になったかのように動けない。 「ほら、逃げないじゃん」 「……」 「そんな風に言ってると、もう1回しちゃうよ?」 「い……や、です」  口ではそんなこと言っておいて、僕はしっかりと瞼を閉じ、降りてきた唇を受け止めた。  欲しがるみたいに自ら唇の力を緩めれば、すかさず舌が潜り込んでくる。   「……っん」  角度を変えられた時に、意図せず喉が鳴ってしまったのがまずかった。  その零れた声をきっかけに、明らかに森下くんの力強さが変わったのだ。  僕の頭を痛いくらいに引き寄せ、より深いところまで舌を沈みこませてきた。    風呂場でのキスよりもさらに深く、深く。深海へ沈み込むみたいに。  息が上がって頭がぼうっとする。  体の中心がぎゅっとなって、どうしたらいいのか分からなくなった。 「……は……っ」  ようやく解放されたが、散々だった。  顔は燃えるように熱いし、眼鏡はズレているし、お腹の奥は痛いくらいに疼いている。  そんな僕をじっと見下ろしている彼の視線に、恥ずかしくて耐えきれない。 「ほら。全然、逃げない」  掛けていた眼鏡を外されて、僕は激しく首を横に振った。 「い、いやですっ!」 「本当に嫌だったら、俺のこと蹴飛ばしていいよ」  言われながら、掛け布団を捲られてしまう。  着ている浴衣は形が崩れ、合わせ目が大きく開いて太ももから下が丸見えになっていた。  布を引っ張るも、その手を捉えられてしまう。 「そんな姿も可愛いって思えるってことは、俺ちゃんと店長のことが好きなんだよ」  そんな姿って?! どんな?!  こんな、情けない姿が可愛いだって?!  森下くんはまた、僕にキスをする。  緊張のあまり、手足が震え出した。怖い。けれど、やめて欲しくない。不安と期待をいり混じらせながらキスをしていると、眦に自然と涙が滲んできた。 「……っあ」  足を動かすと、足の間が彼の膝に意図せず当たってしまって変な声が漏れた。  恥ずかしい。そこはもう大変なことになっている。    森下くんの手が、そちらへ向かう。  浴衣の上からその膨らみを撫でられて、ビクンと体が跳ねた。 「や……ダメです……っ」 「でも、すごく反応してる」 「あ……っそん、な……こと……っん……ッ」  上下に撫でさすられると、ビリビリとした快感が脳天まで駆け抜けた。すごく気持ちがいい。森下くんの手によって、僕は蕩かされていく。 「やっぱり、ここでやめる?」  瞼を持ち上げると、目を細める森下くんがいた。  ひどい。意地悪。  こんな風にさせておいて、途中でやめられるわけがないと、男ならば分かっているのに、わざと。  僕は両目を手で覆った。 「やめ、ないで……」
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