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プロローグ
…おかしい。
千紗(ちさ)は、幼いながらも、必死に考えていた。
最大(大人が)20人まで乗れるエレベーター。
一階のエレベーターホールで待っていたのは、小学生の私たち女の子3人と、年配の男女3名だけだったはず。
今話題のアニメ映画が公開になったからと、仲良しの女の子3人で楽しみにして、映画館のあるデパートの一階から、エレベーターに乗ったところだったのに。
その扉が開いたと同時に、千紗はものすごい圧迫感を感じて、みるまにエレベーターの最奥まで押し込まれてしまっていた。
「…えっ、ちょっ」
行き先ボタンを押したくて必死にもがいたが、大きな黒い背中が何人も立っていて、押しても引いてもびくともしない。
あとは一緒にきた友達か、他の誰かが、自分たちが降りる階のボタンを押してくれていることを祈るばかりだった。
それにしても、すごい人。
一体、何人乗っているのか。
まだ小学5年生だった千紗は、ぎゅうぎゅうの箱の中で、ふぅ…と小さくため息をつくしかなかった。
そのうち、エレベーターの音声が、
「4階です。」
と機械的な女性の声で告げた。
千紗たちが降りる階だ。
「…あ!お、降ります。」
なんとか黒い人だかりをかきわけて、降りようと千紗はもがいた。
と、また背中側からものすごい圧でぐいぐいと押し出され、千紗はエレベーターから出ることができたのだ。
「…はぁ~、すごい人だったね。」
人混みの圧迫感から解放されて、千紗が大きく息をつくと、それを見ていた友達の瞳ちゃんがきょとんとした顔で言った。
「え、何いってるの?」
もう一人の友達、みっちゃんも
「…ガラガラだったよ、ね。」
と、びっくりした顔で言っている。
「…。」
それで千紗は、我にかえるのだった。
(ああ、またやってしまった…。)
「ご、ごめん。なんでもない。映画、はじまっちゃうよ。行こう行こう。」
あわてて友達二人の背中を押し、千紗は映画館に向かうのだった。
(…気を付けなきゃ、また変な子扱いされちゃう。)
心でそう思いながら。
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