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洗顔後の保湿が終わり洗面所を出ると、出迎えられた光景に私は固まってしまった。
「さあ藤子さん。お着替えのお時間ですよ」
ニタニタした笑顔で言った蒼真さんの両手には、西洋貴族のお姫様が着るようなドレスがあったのだ。
花柄があしらわれた深い緑色の布地と刺繍レースなどの細かいデザインから、安物じゃないのが容易くわかる。
毎回毎回、こんなのどこで仕入れてくるんだろう…。
妙な感心もあってドレスを眺めていると、聞いてもいないのに「この刺繍部分はですね、スイスの有名な刺繍アーティストのポムさんに依頼したもので、所々に藤子という文字を入れて頂いたんですよ!」と嬉しそうに説明してくる。
「藤子って、刺繍が…?」
「はい!ここです!」
蒼真さんが指差す箇所を目を凝らして見てみると、確かに藤子という漢字がさりげなく刺繍されている…。なんて芸が細かいっ…!
流石刺繍のプロ!と感動したのと、遠い異国のスイスに住むポムさんが作ってくださったドレスを無碍にはできないという思いと、絶対着てほしい!僕は着るまで諦めない!の構えをキープする蒼真さんに完敗し、私は素直にドレスを受け取った。
渋々、という感じはあったけど、とても可愛いドレスだったので着てみたい気持ちも正直あった。
蒼真さんはもしかすると、私のドレスの好みまでリサーチ済みだったのかもしれない。
夫には私の事、全て知られているんだと、改めて思う瞬間だった。
「ふぁああああっ!ふ、藤子さん!プリンセス藤子さんっ!素晴らしいです!ふぁあっ」
ドレスに着替えて寝室を出ると、興奮した蒼真さんの奇声と拍手を浴びた。
恥ずかしくなりながらもそのままリビングに移動すると、私はそこにあった光景に絶句することになった。
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