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公園に着くと、僕は藤子さんを花の鑑賞に誘った。
満開のツツジや色とりどりのポピーやバラを見ては「わぁ、綺麗」と笑顔を綻ばせる藤子さん。
僕はその様子を今日の為に磨きに磨いた高級一眼レフのカメラで必死に撮影した。
「蒼真さん、花も撮ってくださいね」
「大丈夫です!映ってますよ!」
藤子さんのバックグラウンドに添えておりますとも!
しかし藤子さんという究極に美しい一輪の花が輝いているというのに、他の花だけに焦点を当てることはできなかった。
無理なのだ。やろうとしてもレンズが勝手に藤子さんにフォーカスしてしまうのだ。
「藤子さん。藤の花も咲いてますよ」
僕が女神の花だと称えている藤の花を見つけてしまうと、僕の撮影への情熱は更に燃えた。
優雅で柔らかい藤の花と我が愛しの妻、藤子さんのコラボレーションという神秘な一瞬をどんどん撮影し我を失っていると、藤子さんが不満げにポツリと呟いた。
「私ばかりじゃなくて、蒼真さんと一緒に撮りたいです」
「藤子さん!」
僕とイチャイチャな写真が撮りたかったのですね!気づかなくてすみません!
そうして僕は三脚をセッティングし、藤の花を背景にし夫婦のラブラブショットに勤しむのだった。
人の波が消えた瞬間を良い事に、ほっぺやおでこにキスをしてしまうとこれが理性を壊してしまい、柔らかい唇を何度もいただき、そのうちに夢中になってしまったのだが。
ここで異変が起きた。
僕の鼻先や、藤子さんの頬に水滴が落ちてきたのだ。
「ん?」
二人して顔を上げたその刹那、バケツをひっくり返したような豪雨が突然降り注いできた。
な、なんてことだ!
キスをしながらなんだか暗くなってきたような…とは思っていたが、藤子さんの唇が良すぎて空を見上げる余裕もなかった。
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