1626人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「蒼真さんっ。あそこに行きましょうっ」
慌てた素振りで僕の腕を引っ張る藤子さんは、離れた先にある屋根付きベンチ、東屋を指差している。
僕はカメラと脚立を片手に抱え、ポケットに入れていたハンカチーフを藤子さんの頭にかけて守りながら走るという器用な技を披露しながら東屋に向かった。
だが、着いた頃にはお互い濡れてしまっていた。
「いきなり降ってきましたね…」
「はい。先ほどまでいい天気だったのに…」
雨が降り注ぐ灰色の空を見上げながら僕は悔しさで拳を握った。
僕としたことがあまりに浮かれていて天気予報という大事なチェックを怠っていた。
「僕の計画が……」
「計画?何かする予定があったんですか?」
「はい…。大凧に乗って藤子さんを驚かせたかったんです…」
「……え?」
そう、僕はサプライズとして大凧を用意していた。
それもただの大凧じゃない。藤子さんと僕の結婚式の特大写真を張り付けた大凧だ。
僕はその真ん中に手足を縛り付けられ、愛を叫びながら空中を飛ぼうと思っていたのだ。
「そんな忍者じゃみたいなことできるんですか…?」
「と言っても、実際は小型ジェット機に大凧を繋げて飛ぶ予定だったんです」
「危険極まりないですね…」
「はい…」
本当に危険極まりなかったし、毎度死ぬんじゃないかと思うほど過酷な練習だったし、なんで僕こんなことしてるんだろうと思ってしまったことも一度や二度ではなかった。
だが、それでもこのチャレンジに挑戦したのは、藤子さんへの愛の為だ。
「危険への恐怖を超える程、僕は藤子さんを愛しているんだとお伝えしたかったんです…」
「蒼真さん…」
すると僕のスマホに着信が入った。
出てみると小型ジェット機のパイロットからで「今日は無理だなぁ、ワハハハハッ、すんげー雨だぁ。ワハハハハ」と陽気にキャンセル宣言をされたので、僕は天気もパイロットも恨めしくて、危うくスマホを潰すところだった。
最初のコメントを投稿しよう!