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「でも大丈夫ですよ、藤子さん。他にもサプライズを用意しているので!」
「何があるんですか?」
「それは」
行ってからのお楽しみ、と言おうとした所で、空気の読めない僕のスマホがまた鳴った。
嫌な予感を感じながらも電話に出て、相手と話し終えると、僕は膝から崩れ落ちた。
「蒼真さん!?」
「なんでこうなるんだ…」
「何かあったんですか?」
「うぅ…。藤子さんを豪華クルージングにお連れするつもりだったんです」
「クルージング?それは楽しそうですね」
「はい。でも海が大荒れで無理だって、今電話が…」
僕が項垂れると、藤子さんが優しく僕の背中を撫でた。
「お天気はしょうがないですよ。人間の力じゃどうしようもないものですから」
ああ…。僕の妻はやはり聖女だ。
こんな空気の読めない天気の横暴ぶりでさえも受け入れる寛大さ。凹む僕を励ます優しさと気遣い。
僕とは大違いだ。
僕は天気が恨めしくてしょうがない。
もし空の上に雷神様がいらっしゃって己の気分で雨を降らしたり雷を落としているのなら、僕は今、素手で雲から引きずり降ろし、説教できる気分だ。
「蒼真さん、元気出してください」
「藤子さん…」
いつもなら、脳みそが藤子さんで染まっている僕は藤子さんの微笑みやその手で背中を撫でられるだけで心も体も将軍様までもが元気になってしまうのに、お誕生日の計画がこんな風にして台無しになってしまった申し訳なさが大きくて立ち直れないし、悔やんでも悔やみきれない。
藤子さんを心から楽しませて、幸せを噛み締めて頂きたかったのに…。
自分の非力さが辛かった。
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