空気を読んでくださらない雷神様

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「雨、凄いですね」 「ねぇ。急に降ってきたねぇ」  藤子さんが話しかけると、二人はうんうんと頷きながら困ったように笑った。 「今日は天気が良くなると思って、久しぶりにデートをしようかって話してね。そうしたら、すごい雨が降っちゃって。びっくりだねぇ」  お爺さんが目尻にたくさんの皺を寄せながらゆっくりとした口調で話すと、お婆さんも皺を寄せて「びっくりだぁ」と朗らかに笑う。 「お二人はご夫婦でいらっしゃるんですか?」 「そうそう。結婚して、えぇっと、何年目だっけ?」 「60年目」  お婆さんが答えると、藤子さんが目を丸くした。 「60年!すごい!」 「長いけどね、あっという間なのよぉ。お二人も結婚してるの?」 「はい。永遠の愛を誓いあいました」  お婆さんの問いに堂々と答えたのは僕だった。 「そぉう。お似合いねぇ」  そう言ってくださるこの老夫婦を僕は好きになった。照れながら「ありがとうございます」と答える藤子さんも大大大、大好きですっ!  それから雨の勢いが止むまで僕たちはお互いの馴れ初めや、結婚生活のあれこれを話しながら過ごした。  小学校の同級生だったお二人は戦後の混乱の中、一度は離れ離れになったが、数年後運命の再会を果たし恋人となり、すぐに結婚したのだとか。  その話をしながら、お爺さんがお婆さんを見つめる眼差しや、照れたように笑うお婆さんの表情が、僕と、そしてきっと藤子さんの胸をじんわりあたたかくしてくださった気がする。  僕の五年に及ぶストーカーの内容を軽く話した所で一瞬お爺さんお婆さんの瞳に動揺の色が見えたが、「世の中まだまだ知らないことばかりだなぁ」と最後は未知の世界に触れたことで何かしらの感動も覚えたのかもしれない。
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