ご生誕祭、前日

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「藤子さん、今日はそろそろ眠りませんか?」  ソファーに座って食後のデザート、当たり付きアイスバーを食べていた藤子さんは、僕の提案を聞くとポカンとした。  その表情のまま時計を見やる姿の、な、なんと可愛らしいことかっ! 「まだ21時ですよ?蒼真さん今日は疲れてるんですか?」 「いえ、僕はとてつもなく元気ですよ。でも藤子さんはそろそろ眠ったらいい気がするんです」 「…なんでですか」  私が寝ている間に何かする気だな、と疑うような眼差しに光悦感を覚えながら、僕は藤子さんの顔へ手を伸ばし、その艶やかな髪を耳にかける。 「明日は藤子さんの誕生日ですから、ちょっと飾り付けなどをしたいんです」 「あ。そういえば明日は私の誕生日でしたね」  ああ藤子さん…。  僕やご家族の誕生日、ついでに田辺さんや僕の家族、それから必要もないのに坂本の誕生日までしっかり覚えているというのに、自分の誕生日には疎いところ、なんと慎み深い…。  そんなところも愛らしくて仕方がないし、ただただ可愛くてどうしようもないので唇を重ねると、桜色の唇は僅かに冷たく、ほんのりとレモンの味がした。  一回だけと思っていたのに、僕を見る藤子さんの頬が紅色になっているのを見てしまったら、一回だけで終われるわけがない。  何度も重ねて唇のぬくもりを味わっていれば、下の方でお休みになられていた僕の暴れん坊将軍様が『よいか?よいのか?ど、どっちだ…?』と布団から起き上がりそうになってしまったので、僕は己の死力を尽くして藤子さんの唇から離れることにした。  将軍様が輝くご立派な宝刀を振り回すのは僕としては大歓迎なのだが、今夜は祭りの準備がいろいろあるから我慢せねばならないのだ。 『出番は明日です、将軍様』 『なに、明日か』 『明日、その伝説の宝刀を思う存分振り回してください』 『うむ、よかろう!』  そう言って将軍様は布団に横になられた。
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