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「それじゃあ、また」
「気を付けてね」
雨が止むと、二人は手を繋ぎながら東屋を去って行った。
そんな二人の曲がった背中が遠くなるまで見送っていると、藤子さんがそっと僕の手を握った。
「なんか、素敵なご夫婦でしたね」
「そうですね。可愛らしい、という印象も僕はありました」
「ふふふ、なんかわかります」
そうして僕の肩にふわりと頭を傾けた藤子さん。
「私も蒼真さんと、あんな風に仲良く年を重ねたいです」
ポツリと、だがしっかりと呟いた藤子さんの美声は、僕の鼓膜といろんな神経を震わせた。
もう………。
ふ、ふぁああああああああああっ!
僕の頭は幸せの絶頂に飛んで行った。
幸せ過ぎて震えた唇をぐっと噛みしめると、藤子さんが小さく笑う。
「良い時間を過ごした気分です」
「僕も同じ気分です。…ですが、藤子さんへの愛を伝える大凧ショーを見せて差し上げられなかったり、豪華クルージングにお連れできなかったのは悔やみきれません…」
「蒼真さん!」
藤子さんは急に僕の正面に立ち、僕の両手を強く握りしめた。
「大凧に乗らなくても蒼真さんの私への愛は毎日すごくすごく、それはもう大波のように全身で感じているし、豪華クルージングに乗らなくても、私は蒼真さんと一緒に過ごす何気ない日々でいつもいつも充分すぎる程幸せなんですよ」
「ふ、藤子さん!」
「今日はお天気が悪くなっちゃって、蒼真さんが折角用意してくださった計画が駄目になっちゃったけど、お陰でこの屋根の下で良い時間が過ごせました。なので、蒼真さん」
「は、はい」
「今日は、私を外に連れて行ってくれて、ありがとうございます」
「藤子さん…」
藤子さんの笑顔は僕のホッカイロだ。
先ほどのお爺さんお婆さんから頂いたあたたかな気持ちよりも更に僕をあたたかく、いや、むしろ熱くしてくれる。
特に下の方をいつでも戦闘準備整いますよとばかりにじんわりさせてくださる!ああ!なんて罪なお方!
藤子さんの優しさに心は打たれ、潤んだ唇と瞳がただただ可愛らしく、僕は藤子さんを自分の腕の中に引き寄せた。
「蒼真さん?ひ、人が近くにいるかもしれないですよ」
「少しだけ」
「でも…」
「藤子さん。ずっとずっと愛してますよ」
ほんのり濡れた髪の下に隠れる耳に向かって僕の気持ちを囁くと、その華奢な肩が僅かに震える。
そうして数秒経ったあと、藤子さんも腕をまわしてくださり、「私もです」と小声で答えてくださるものだから!
あああっ!困った!
可愛いすぎて困ってしまうし、この東屋に壁があったら今すぐ押し倒していたくらい、非常に困る僕なのだった。
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