バースデーナイト

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 店員さんおすすめのお料理に合う白ワインを乾杯して、食事を楽しみながら、大凧に乗る特訓の詳細や大凧ショーの内容などを真面目に話してくれる蒼真さんに笑ったり。デザートに苺が乗った濃厚なチーズケーキを頂いたり。  贅沢なひと時を過ごしお腹も満たされた頃、蒼真さんが足元に置いていた丈夫そうな紙袋の中から、光沢のある藤色の包装紙に包まれたプレゼントを渡してくれた。 「誕生日おめでとうございます、藤子さん」 「ありがとうございます」  蒼真さんに見守られながら開封してみると、高級ブランドのブレスレットが入っていた。 「今つけてみますか?」 「はい」  輝くシルバーのブレスレットに目を奪われていた私に、蒼真さんはわざわざ席を立ち、側まで来て手首にそれをつけてくれる。 「蒼真さんは私の好きなデザインがすぐわかるんですね」 「実は田辺さんにも協力してもらったんですよ」 「田辺さんに?」 「はい。僕は会社での藤子さんを見ることができませんから、たまに田辺さんや坂本さんにそれとなく連絡をして日々の様子を教えてもらってるんです」  瞬きを繰り返して夫の綺麗な顔を見つめながら、返す言葉を探していたけど見つからない。  そんなことしてたんだ…。 「でも坂本さんは根から意地の悪い人なのか、なかなか口を割らないんですよね。僕を苛つかせるのを楽しんでる節があります…」 「へえ…」 「でも田辺さんは簡単ですよ。躊躇なくいろいろ話してくださいます。このブレスレットも、一緒に雑誌を見た時に藤子さんが可愛いと何度も言っていたと教えてくださったので、参考にさせていただいたんです」 「そんな経緯があったんですね」 「はい。坂本さんと違って田辺さんは単純でいいですね」 「そ、そうですか…?」  褒めてるんだか貶してるんだか…。  田辺さんは単純ではなく、無邪気で裏表のない純粋な人だと私は思う。  そう言おうと口を開いたけど、いつの間にかブレスレットが輝く私の腕を、スマホカメラで撮影して楽しそうにしているので、次の機会にしておこう。  そうして食事を終えた私達はレストランを後にした。
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