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「うわぁ…すげぇな…」
坂本さんはリビングに入った瞬間、視界にどうしたって入る私の写真を映す液晶パネルに、早速顔を引きつらせた。
多分これが一般的な反応だと思うのだけど、田辺さんはちょっと違っていて、笑いのツボを刺激されたのか手を叩きながらケラケラ笑っていた。
蒼真さんのお母さんは「やっぱ発想が主人と一緒だわ」と呆れ、お義父さんは「うん!やはり血は争えないな」と誇らしげ。
義理の妹の愛里ちゃんは「これ、私の部屋にも一個欲しい」と熟視していた。
和真くんだけは液晶パネルに無関心で、田辺さんの後ばかり追いかけていた。
結婚式の時に田辺さんに一目惚れしてから数ヶ月も経ったのに、いまだに隙あらばと狙っているらしい。
やっぱり仁科家の男児に受け継がれる惚れた相手に執着するという呪いは強力なようだ…。
まあ、だからって坂本さんが許すわけないのだけど。
「おい、和真さんだっけ?あんたさっきから真奈美の背後にくっつき過ぎだって」
「甘い香りに誘われるんだからしょうがないでしょ!」
「しょうがなくねーわ!離れろ」
「ああっ…真奈美ちゃんっ」
結局坂本さんに首根っこを掴まれ、和真くんは玄関まで強制退場されていた。
田辺さんはそんな一部始終を気にした様子もなく、蒼真さんが用意した数々のデザートを美味しそうに頬張っていたので、彼女は間違いなく鋼のメンタルを持っていると思う。
「パネルに映ってる先輩、まるで人気アイドルみたいですね!可愛いです」
「ありがとう…。でもやり過ぎてるよね、これ」
「そうですか?アイドル気分が味わえていいじゃないですか」
「でも私、アイドルに憧れてるわけじゃないよ」
「仁科さんの中では、先輩は一生推したいアイドルってことなんですよ!ところで、仁科さんがいないですね」
「え?」
てっきり写真撮影に勤しんでいると思っていたけど、周囲を見渡すと確かに蒼真さんの姿が見えない。
お手洗いだろうかと考えた次の瞬間、急に部屋中の照明と液晶パネルの映像が消えた。
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