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「停電か?…まあ、あれだけ電力使ってたら落ちるよな」
坂本さんの独り言が聞こえたと思ったら、キッチンのある方向から火のついた蝋燭がいくつも現れ、こちらにゆっくり動いて来る。
「ハッピーバースデー、藤子さ~ん。ハッピーバースデー、藤子さ~ん」
語りかけるような口調で歌って登場したのは蒼真さんだ。
台車に乗った蝋燭付きの豪華な三段ケーキを私の前まで運んでくる。
いつの間にこんな大きなケーキを用意してたんだ…と心の隅では驚きつつ、私を考えていろんなサプライズを用意してくれている蒼真さんに感動してしまう。
ウルッと涙が滲むと、パッと電気が付いた。
「皆さんいきますよ。せーのっ」という蒼真さんの掛け声のあと、「誕生日おめでとう~!」と皆が声を揃え、一同にクラッカーを鳴らした。
こんなに大勢の人に、こんな風にお祝いしてもらったのは初めてだ。
蒼真さんや、みんなの優しさがどうしたって嬉しくて、ついに涙がこぼれてしまう。
「みんなぁ…、ありがとう。ありがとうございますっ」
そんな私を見て、お母さんと蒼真さんのお母さん、そして田辺さんまでもが泣き出してしまうから、余計に私の涙を誘いだしてしまう。気づいてみると蒼真さんの目も潤んでいた。
それからみんなで三段ケーキや料理を食べながら談笑し、みんなから贈り物も頂いた。
あまりにも楽しい時間はあっという間に過ぎる。
そろそろ日付が変わりそうな時間だ。
この頃から蒼真さんの気配がややピリピリしてきたことに私は気づいた。
「蒼真さん、どうしました?」
「そろそろ僕達だけの時間が欲しいので、さりげなく皆さんを帰らせようと手を回しているのですが…。帰ってくれないので狂いそうです…!」
見ると握った拳が震えている。
そんなに帰ってほしいのか…。
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