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確かに夜も遅いし、騒音を出していてはご近所迷惑になってしまうし、皆の睡眠時間を削ってはいけない。
そう思って「そろそろお開きにしましょうか」と伝えると、「蓬田がそう言うなら帰るか」と坂本さんと田辺さんが帰り、その後すぐに両家家族も帰って行った。
「…僕が言っても帰ろうとしなかったのに。藤子さんの言葉は人の心に響くのですね。やっぱり、聖女ですね」
「え!そんな清らかな存在じゃないですよ!?」
顔を赤くして否定してしまうと、「ああ、可愛いっ!」と悶えた蒼真さんに抱きしめられた。
驚いたけど、途端にぬくもりを感じ安心してしまう。
「蒼真さん、今日は本当にありがとうございました」
「感謝するのは僕の方ですよ。藤子さんの誕生日を祝うことができて本当に嬉しいです」
「私も、蒼真さんの誕生日にはサプライズをたくさん用意して、びっくりさせますからね」
笑いながらもそう告げると、蒼真さんの手が頭に移動し、優しく撫でてくれる。
「僕の誕生日は何もしなくてもいいんですよ。ただ、隣に居てくれれば」
「それはもちろんそうですけど。でも何かしたいです。っていうか、しますから。あ。何かリクエストありますか?」
すると蒼真さんの体がピクッと揺れた。どうしたのかと顔を見上げると、熱い視線に絡まれた。
「では……、逮捕してもいいですか?」
「…え?」
逮捕、って?
首を傾げかけた時、私の脳裏に眠っていた記憶が蘇った。
今朝見た夢だ。
『逮捕しますよー!』と私を追いかけまわした警官姿の蒼真さんと、捕まえてくれ速度で走っていた私。
あれはなんだかんだで楽しい夢だったな…なんて感想を抱いた自分にハッとして、思わず下を向いてしまう。
「あっ!いえ、今のほんの冗談です!本当に逮捕するんじゃなくて、夫婦間の遊びといいますか、いわゆるプレイといいますか。あ!いやっ、でも逮捕なんて普通嫌ですよね。すみません、今のは忘れてください。度が過ぎましたね…」
そっと私の体を離れ、妙に凹んだ様子でソファーに腰掛ける蒼真さん。
その姿がなんだか可愛らしくもあって、ついつい口角の端が上向きになる。
少し揶揄ってみたくもなって、私は蒼真さんの隣に静かに座った。
「蒼真さん」
「はい…」
「私…。蒼真さんになら、逮捕されてもいいですよ…?」
揶揄ってみたいとは思いつつ、やっぱり恥ずかしさもあった私の声はかなり小さかったと思う。
それに、グーにして差し出してみた両手もちょっとばかり震えているのだから笑える。
「藤子さん…!」
目を瞠った蒼真さんに、うんと頷いてみると、束の間唸っていた蒼真さんがムササビのように飛び込んでくるのだった。
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