雨なんての降らなくてもそんなに違わんからな

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 彼も家督を継ぐのも近い歳。家の使用人だけでなく村人たちにも言うことが通り始めていた。 「今日三人病に伏せたものが居ます。そして今年も農作物は芳しくありません」  村人が家に陳情に訪れるのは毎日のことだった。  村は不作で、病も優れない。これまでよりも悪い状況になっている。 「最近、神社の前でも竜の子の話をする人が増えてるの」  いつものように男が女の子に食事を運んで、ちょっとだけ話し相手になっているときだった。普段は彼女からこんな風に言うことはない。彼が普通なら。 「そうか。なら、より村人に注意しないとな」  当然彼は彼女からの文句なのだろうと、普通に聞いていたのだが、彼女は首を振った。 「違うんです。長に話を。できれば直に」  こんなに彼女が男に向かって畏まって話すことなんてこれまではなかった。しかも、その瑠璃色の瞳がとても真っ直ぐだ。 「解った。父上に頼んでみる。なあに、君のことは理解しているから願いがあるなら聞いてくれるよ」  長に彼が彼女の言うことを伝えると、予想通りすんなりと彼女に会うことになった。  神社に長が訪れたのはそれから直ぐのことだった。 「やあ、窮屈な思いをさせてすまないね。本当は私もこんなのは望んでないのだが、中々村人の理解が得られなくて」  彼女の家は長の元に勤めていたので、彼女のことを長は昔っから知っている。子供が同年代なのでなおさらだ。 「いえ、私だって望んで人々から離れているので。そしてそのことで長に願いが有ります」  女の子は長の前で礼を尽くして座り、そしてあたまを下げた。 「私が流人となることをお許しください」 「ちょっと、待って。どうしてそんなことになるんだよ」  話し合いには男も同席していた。長も女の子の二人とも別に拒まなかったから。当然文句は彼からだ。 「お前は黙っていなさい。これは私と彼女との話し合いだ」  長は難しい顔になって彼には強く言うが視線は彼女に向けている。 「村の人たちが私を竜の子と呼び忌みきらうのであれば、私はこの村を離れます」  ずっと深々と礼をしている彼女に長は「ふう」と一つため息をついた。 「どうかな。確かに村人のほとんどはそれで安心するのかもしれない。例え雨の状況が違わなくても。しかしだな。君のことを悪く思ってない、好いている人だって居るだろうに」 「自分なりに考えた答えです。私の家は代々長の元で働かせてもらってました。そして今も恩義をかけてくれています。私は使用人として長の許しをいただきたいのです」  やっと顔を上げた彼女の瑠璃色の瞳がうるんで男は自分のことを見つめているように思った。一言反論を言いたい。しかし、そのタイミングは許されなかった。 「君の想いは分かったが、直ぐに返答もできない。君の家は尽くしてくれたからな。簡単に見捨てられないよ」  長が直ぐに返答して「願いが他にないなら、思案する」と神社から離れてしまった。
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