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今もまた雨が降っていた。
「騒ぎかな?」
ふと気付いたのは遠くのほうで村人の大きな声が聞こえたことだった。それは長の家から聞こえるので男が気になって立ち上がった。
「お気をつけて」
今はもう単に長の息子ではなく、次期長の彼が無視をすることはない。彼女もそれをちゃんと理解をして男の履物を用意していた。
「直ぐ戻るからさ」
名残惜しそうに彼女のもとから離れるが、その時に彼が見た彼女の顔はにこやかな笑顔だった。
「いつまで竜の子を自由にさせておくのです!」
降りしきる雨の中にとても陳情とは思えない人の村人たちが集まっていた。
「どうしたのです?」
男はその様子を見て、近くのお手伝いさんを呼び止めた。
「今日も村で病によって亡くなった人が三人居たんです。それでこの雨でしょう。あの竜の子を許さないと申しまして」
流行病は蔓延していた。この時代の医学では簡単に治らない。それにこのところ雨が強く降っていた。しかしそれはこの村に限ったことではない。病気も雨もほかの村でもあることだった。しかしこの村には責任を押し付けられる「竜の子」がいる。
男は長の部屋まで詰め寄る村人たちに立ちはだかった。
「ちょっと待ちなさい。病も雨もあの子がどうにかしたと言う確証はあるのか? 彼女が居なくなれば全て平和になると本当に思っているのか?」
当然そんなことを確信している村人は居ない。それでも人々の鬱憤は留まることを知らない。
「うちの娘はまだ三つにもならないのに、病で死んだんだ!」
「私の主人だってそうなんだ!」
こんな言葉は終わることなく上がった。そして神社近くの畑の村人が前に出る。
「俺は見たんだ。前の長が亡くなる数日前、あの娘と会ってた。竜の子が雨を降らせ長の命まで取ってしまった」
迷信深い人は当然居る。単に男の父親が女の子と会ったのと病は無関係。でもそれを結び付けたくなる時だった。
「そんなの関係ない」
男が説明したところで今の村人の耳までは届かなかった。
「待ちなさい」
静かだけど皆に届く声が響いた。長が男も含めてその場に居る人間を一喝していた。
「わからないことをただ言い合っても仕方が有りません。わたくしがあの娘と話しましょう」
これには誰もが納得した。男も村人も。
当然信じらないことなので男はこれで彼女の誤解が解けると思って。村人は悪を明らかになると安どしていた。
「ちょっとお話を良いかしら?」
あまりの人の数に驚きながらも長の言葉に女の子は深々と礼をする。
そして長と女の子だけが神社で向かい合った。男も村人たちと居る。
「話の前に一言。うちの嫁になんてわたくしが死んでも許しませんから」
それは外に居るものに聞こえないように長が女の子の耳元で話したこと。女の子はまた驚いた顔になったが直ぐに納得したように落ち着いて頷いた。
「さて、今日はこの雨。そして村にはびこっている病について、貴方が招いた災いだと言う人が居るのです。単刀直入に聞きます。責任はあるのですか?」
呆れた言葉。村人たちより前に居る男は「こんなの簡単に言い返してしまえ」と思っていた。そして彼女も呆れたが、心模様は今日の天気みたい。
瑠璃色の瞳が男ことを眺めて、それが外れた。
「真実は知りません。しかし、私が村の人たちのことを不快に思って憎んだことは無いとは言えません」
「つまり、雨を降らせている自覚はないが、力が有ったとしら原因は無いとは言えないと?」
女の子の言葉を長が聞き返して、男が「なんでそんなことを言うんだ」と呟いていた。
「こんな村、滅んでしまったら良いのに」
彼女の呟きは強い雨の音にも消されなかった。
「許せない!」
村人の誰かが叫んだ。それから女の子を悪者にする言葉が鳴りやまない。
「やめろ! なんてことを言うんだ。君も!」
村人たちが波のように神社の女の子に詰め寄る中で、男が縁側にジャンプして村人と女の子に言い放った。
「こんなことにならないように、もうちょっとで上手くなりそうだったのに」
男はその時泣いていた。それでも顔を上げると「認めない!」と村人たちに言い放った。
次期長の言うことなので村人たちは簡単に反論ができなかった。
「この子は騙されてるんでしょう。捕まえて閉じ込めておきなさい」
しかし強い言葉で放ったのは長だった。その長は男の肩を掴んで村人に引き渡した。男は村人たちに取り押さえられてる。
「待て! 俺の話を聞くんだ!」
そんなのは誰も聞いてなくて今はあの女の子でさえも。
「責任はどうしましょうか?」
冷たい言葉で長に言われる彼女の瞳が暗く光をうしなっている。
「命さえもう望みません」
「では神のもとへ返しましょう。龍の谷へ」
長の言う龍の谷とは山間にある深い谷。つまり女の子にそこへ身を投げろと言う意味だった。
女の子は抵抗する様子もなく一言「はい」とだけ呟いて、神事となるので準備が急いで行われる。
男は神社から離れた農家の納屋に閉じ込められた。しかし、その姿は直ぐに無くなってしまっていた。
龍の谷へ夕方には村人と長に女の子が向う。
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