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雨と夕暮れが近い谷は暗く谷底は見て通らない。
「ちょっと待て!」
神事として進めようとしていると、声が掛かった。それはあの男の声だった。
男は茂みから姿を現すと村人をかき分け女の子の横に並ぶ。ふと「あの納屋は君と昔、良く遊んだからね」と逃げ道を知っていた様子。
「御子息、身を引いてください」
「だめだ。こんなことが許されるもんか。俺はこの子と村を離れる。災いもつれて居なくなる。それで良いだろう!」
少し男の見方をする白装束の者が居たが、もちろん男は納得しないで別の解決方法を示していた。
それに村人の中から「それでも良いのかも」という言葉もある。
「それでは皆が納得できないのよ。この子の罪を償わせないと」
言い返したのは長だった。
「もう良いの。忌みきらわれて貴方と一緒に居られないなら、私はこれで」
男には女の子も縋っている。その瞳を見ると男は言葉も無くなりそうだったが、次の選択肢を選んだ。
「なら、俺はこの子と命を共にする」
どよめきが広がる。それは隣の彼女もそうだったみたいで心配な瞳が有る。その彼女に向かい「もうこんなのこりごりだ。君とどんなところでも一緒に居たい」と伝えると女の子は納得したみたいに小さく頷いた。
「だけどな。こんなことになっても災いなんて終わらない。雨よ降れ。全ての戒めを流してしまえ」
男は語りきると女の子の手を取った。
どこかで必死になって男を止めるように嘆いている長の声が響いていた。
「怖くないか?」
「貴方とならそんなに」
女の子は強く男の手を握っていた。
二人の姿はふわりと消えてしまった。
谷底を眺めても暗いだけ。
いくつかの月日を越えた村から離れた街道で旅人が茶屋で休んでいた。
「向こうの山にあった里が雨で滅んだってな」
「そんなに小さな村じゃなかったのに、雨続きで、いつからか更に酷くなって地すべりまで有ったとか」
「水神様がお怒りになることでも有ったのかね」
笑い話にされている前を二人の夫婦が横切った。笠で顔は見えないが、若い。妻には頬に痣がある様に見える。そうして夫のほうがどこまでも続く青空を伺う。
「祟りみたいなのかもね」
聞こえてた話にふわりと呟いてた。
おわり
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