突然の逮捕

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突然の逮捕

それは二週間前の事だった、「ブー、ブー、 ブー、」 テーブルに置かれた携帯から着信が鳴っている、リビングのソファで眠っていた吾妻は、寝起きが悪そうに目をしかめながら、どうにかソファから起き上がり、着信が鳴り続ける携帯を手にとって、通話に応答した、「はい、吾妻です」吾妻はまだ覚めない眠気に目を指で抑えながら声を発した、「朝早くから申し訳ありません吾妻さん、実はどうしてもお話しておきたいことがありまして、」  「あぁ…そうですか、お時間はいつがいいでしょうか?」そう言いながら途中で吾妻は思わずあくびをした、「出来れば、すぐにでもお願いしたいのですが?」 クライアントからそう携帯の向こうで応えると、吾妻は目を擦りながら、手首につけっぱにしていた腕時計で時間を確認した、「まだ朝の7時ですよ、他の時間では…」 「すぐにお願いします!」 何故早朝からここまで呼び出そうとするのか疑問を浮かべながらも、仕方なく吾妻はクライアントに朝早くから伺うように承諾し、通話を切った、携帯を再びテーブルの上へと置くと、乱れたネクタイを整え、ソファにかけていたジャケットを羽織った、そのまま洗面台へと向こうとした時、一度立ち止まって、和室に置かれた仏壇に手を合わせに行った、仏壇の上には、もうこの世に存在しない、カメラに笑顔を向ける妻と娘の写真が置かれている、線香に火をつけ、リンを鳴らすと目を瞑って手を合わせた。 元刑事であり、今はフリーのジャーナリストとして働いてる吾妻の暮らしは、家族が一人になってからのこと、暗い日々が続いていた、そんな陰を誤魔化しながら吾妻は気持ちを切り替えて、クライアント益本との待ち合わせ場所である、二階ビルのカフェ店へと歩いていた、やがてカフェ店へと入店すると、既に益本は店内のテーブルで待っていた、益本を見つけると吾妻は小走りで走りながらそのテーブルへと駆け寄った、「お待たせしました、」   「いえ、急に呼び出してしまい申し訳ありません」 「構いませんよ益本さん、それでお話と言うのは?」席へと座ると吾妻は早速本題を伺い始めた、「実は今朝、非通知の番号から私の携帯に何度も連絡が来まして、何度携帯に出なくても、私に着信がかかってくるので、電話に出たんです、」 「えぇ、」 「電話をかけていたのは間違いなく、あれは私の息子です」  「益本さん…、」 益本の言葉に吾妻は気を落とした、クライアントの益本は私と同じく、連続誘拐殺人犯 蛭間の手にかけられ、同じ事件の被害者同士でもあった、しかし、益本は行方不明になり、遺体もまだ発見されていない息子さんが、未だ生きていると信じ続けていた、「残念ですが益本さん、息子さんはもう」 「いや、息子は絶対に生きています、だって遺体だっていつまでたったも見つからないんですよ!」 「悪いですが、私はこれで失礼します、」益本の言葉に耳を傾けず席を立ち去ろうとする吾妻に、益本は慌てて吾妻を呼び止めようとした、「吾妻さんはもう諦めたんですか!」その言葉に吾妻の足が止まった、「娘さん、奥さん、諦めてしまったんですか?」 すると、吾妻の手が突然震えだした、どうにか震えを抑えようとするも、心の中でじっと閉じていたものが突如として爆発しだし、吾妻は怒りを露にして益本の襟に掴みかかった、益本は後ろからバランスを崩しテーブル薙ぎ倒して床へと倒れた、「何してるんだ吾妻さん!」 周りに困惑する益本とは裏腹に吾妻は益本の襟を掴んだまま怒りの怒号を浴びせた、「妻と娘はな…俺の目の前で殺されたんじゃぁぁ!」  その発言に益本は驚いた表情を見せた、「すまない、そんな事情も知らずにわたしは、」益本は謝罪の言葉をかけると吾妻は正気に戻り、益本との襟を離すと、倒れたテーブルを直し、その上に紙幣を置いた、そして涙ぐんだ目を擦ると、周りの目を気にすることなく店内から立ち去っていった。 午前11時、函館西警察署。重い足を引きずりながら、男は警察署前まで歩いていた、ふとアスファルトの下を向くと、そこには沢山の血がアスファルト上に流れていた、その事に気がつくと、ふと大きな痛みがある頭部と右足を確認した、その二つの部位にはやはり大量の出血があった、 「畜生……」愚痴を溢しながらも男はどうにか署内の入り口へと向かっていった。 北海道警察本部庁舎では、本部の廊下を歩く二人のSPが歩いていた、「捕まったと言うの本当なんでしょうか?」 「そうじゃなければ本部に呼ばれないだろう葛城、」ベテランSPの清原は葛城にそう話していると、呼び出されていた部屋の前へと到着した、二人は緊張した様子で部屋の中に入った、「失礼します。警視庁特別警護班に配属されました清原です。」  「同じく葛城です。」   二人の前に座るのは北海道警察本部長の新村、そして同じく部屋には警視庁刑事課警部の神室が同席していた、「わざわざ遠くからご苦労様でした、11時20分、連続誘拐殺人事件の容疑者である蛭間 太郎が函館西警察署にて自首してきた。今回君達の任務は警視庁、北海道県警合同協力のもと、残虐な殺人鬼蛭間を警視庁まで移送させることである。何としてでも蛭間に法の裁きを受けさせるのだ!」   そう話すと清原、葛城は一斉に敬礼を返した、「はい!」  すると二人は横を振り向き、神室警部との挨拶を返した、「それと、今回の任務には我々道警からにも応援のSPを送ることになる」。 二時間後、葛城、清原、神室の三人は新幹線まで輸送させるトラックへと乗り込み、蛭間が現在勾留されている留置場へと向かっていた、「どうしてこのタイミングで捕まったんだろうな?」そう話しかけてきたのは神室だった、「散々人を殺してきたんだ、死刑になるのは間違いないのに、飢え死にでもなるところだったのか、フフ、」 「道警の話からでは、捕まったとき蛭間は血だらけの様子だったと聞きました、誰かに殺されかけたのだと思います。」     「まぁ、当然の報いだろうな」そう呟くと神室は到着するまでの間に煙草を吸い始めた、緊張感にかける神室に清原は良い気はしない様子で、じっと黙り込んでいる、葛城はその複雑な空気に嫌気を感じながらトラックが到着するのを待った。 やがて勾留される函館西警察署へと到着すると、現在蛭間は怪我の影響で医務室へと運ばれており治療を受けていた、同じくその場には道警から選ばれたSPの山崎、小鳥遊、が合流していた、「お前の治療が治り次第、警視庁へと輸送を開始する」 神室が話すその前には、あの殺人鬼蛭間の姿があった、「お前が今まで何処にいて、どうやってのうのうと生きてきたのかを、きっちりと調べてからお前は法に裁かれる」神室は冷たい口調で視線を向けることなく淡々と話している、すると蛭間は突然点滴を受けながら神室の話を遮って話しかけてきた、「どうして早く捕まえなかったんですか?、お巡りさん…」そう呟くと、蛭間はニヤリと笑みを浮かべた、その笑顔に神室の表情は思わず怒りを露にした、「今度は上手くいくと良いですね、」  「貴様…、」 周りの空気は何処か不穏な空気が流れていた、ふとその時葛城は、昔刑事時代に相棒として組んでいた一人の人物を思い出した。
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