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解き放たれた狂気
その頃二号車では、車掌に説明するため先程まで一号車にいた清原は、車掌を連れて二号車の扉を開いて中へと入ってきた、二号車には現在、蛭間を監視する若手女性警護人の小鳥遊、そして警視庁の神室警部、そして同じく警視庁の刑事二人がこの車両に残っていた、清原の後ろを着いてくる車掌の塚本は不安げな様子でこちらを見ていた、二人の近くの座席へと腰掛けていた神室は車掌が来たことに気がつくと、座席から立ち上がり、清原と塚本の前へと歩いてきた、「警視庁の神室です。東京駅に到着するまでの間、この車両にはだれも入れないようお願いします」そう神室は口にすると、ふと塚本は窓側の座席で蛭間らしきフードを被った男の方を振り向いた、「え…えぇ、わかりました。後で乗務員に伝えておきます」 フードの下から不気味な笑みを浮かべる蛭間に、恐怖を覚えた塚本は、早くこの車両から立ち去ろうと話を承諾して済まそうとした、「ではお願いします、」そう神室は頭を下げて応えると、清原は塚本を促して再び一号車の方へと去っていった、「バタン、」二号車の扉が閉まると、神室は一息吐きながらまた近くの座席へと座った、「この調子だとお前ら警護班の役目は無さそうだな、フッ、」 蛭間を隣の座席で監視する小鳥遊にそう呟いたのは、神室の部下である刑事の緒方だった、小鳥遊は緒方を睨み付けながら何も返答はしなかった、「おい!止めておけ緒方、もしもの為に上が配備したんだ、この任務が上手く行けば正式に警護班の設立が認可されるんだ、協力してやろうじゃないか、なぁ?」 「まぁ、そんな必要もないと思いますけどね、フフッ、」ニヤリと笑みを浮かべながら緒方は神室の方を振り向いた、警護班、警視庁、この二つの組織はどこか殺伐とした空気が流れ込んでいる、そんな中蛭間は、じっと頭を窓につきながら、外を眺めていた。
その頃葛城が待機する三号車では、どこか後ろの席から何者かの視線を葛城は終始感じていた、ふとある事を思いついた葛城は、スーツの懐に閉まっていた携帯を取り出すと、すぐさまカメラを起動させ、レンズを内側へ変更すると、自身の顔を映しながらゆっくりと携帯を廊下の方へと右側へレンズを向けていき、やがてレンズに廊下が映し出されると、そのまま視線を感じる葛城とは逆の列の後部座席にカメラを向けた、すると、携帯の画面に映ったのは、キッズ携帯で遊ぶ少女と、その隣に座る母親が映っていた、「あれ?、気のせいか」そう思わず心で囁いたその時、カメラに映る二人の後ろの席からふと物陰が映り込んだ、すぐに視線をその座席へと向け、カメラをズームにするとバレたことに焦っているのか、困惑した様子でこちらに会釈してきた見覚えのある男が映った、それは新幹線に乗り込む前、駅の改札口からしつこく蛭間に追求をしていた紺色のハンチング帽を被るあの記者であった、「全くあの記者、何が目的なんだよ」そう葛城は心の中で呟きながら携帯を下ろすと、扉の上に表示される電光掲示板から時間を確認した。
「ピロロン!」一号車内で車掌と別れた清原から、葛城に連絡がかかってきた、清原は二号車へと戻る前に一度葛城のメールを確認した、極秘移送の情報を知る記者が乗り込んでいると言うことに、清原は険しい表情で携帯から目を離し、二号車へと繋がる扉を開いた、「騒ぎを掻き立てなければいいが、」不安が募りながらも連結部屋を歩いて二号車へと入ろうとしたその時、「カチ、カチ」何故か二号車の扉にはロックがかけられ、中へ入ることが出来なかった、「どういことだ?」とにかく清原は、二号車へといる神室達に向けて複数回ノックをし始めた。
「何だ何だ?」不審に一号車の方からドアをノックする音が聞こえてくる事に、二号車へといる神室達は疑問を浮かべていた、「多分、清原さんでしょう、何かトラブルでもあったのかと?」緒方はそう呟きながら、ドアを開けるため座席から立ち上がった、「待て、私が確認する」神室は緒方を遮ってそう応えると、慎重にドアの方へと歩いていった、そんな時座席に座ったままの小鳥遊は、右手首に身に付けていた腕時計で時間を確認した、新幹線が出発してからすでに一時間が経とうとしている、その時、「お巡りさん…」ずっと黙り込んでいた蛭間が突然小鳥遊の加尾を見て話しかけてきた、その事に、周りにいた数人の目が一気に蛭間の方へと向けられた、「何だ、何だ、刑務所に連れて枯れるのが怖くなったかぁ、」緒方は蛭間を挑発するような口調で威圧を掛けてきた、「トイレ、してきてもいいですか……」蛭間はその不気味な口調でそう話してきた、小鳥遊と緒方は困惑しながら神室の方を向いてきた、「行かせてやれ、」そう呟くと、神室は気になる様子もなくドアの方へと向かっていった、「ちっ、面倒な事を押し付けやがってこのクズ野郎が、」そう言い放ちながら緒方は腰に掛けていた拳銃を取り出した、小鳥遊は緒方とアイコンタクトを取りながら蛭間を座席から立たせると、緒方は蛭間に向けて拳銃を構えたまま、小鳥遊は蛭間を歩かせて連結部屋のトイレへと促した、「ガチン!ガチン!」すると神室のいる方から物音がしてきた、「おかしいな、何で急に扉が開かなくなった!」神室は力付くでロックされる扉を抉じ開けようとするも、扉を開く事が出来なかった、神室はとにかく状況を確認しようと、その場で清原に連絡をかけた、「まだ開かないんですか警部?」何故か扉がロックされている状況を不安に感じた緒方は神室に問いかけようとしたその時、「バタン!」突如トイレの方から物音が聞こえ、すぐさま緒方は後ろを振り向くとそこには、右手で赤く血に染まったガラスの破片を持つ、蛭間が背中を向けて立っていた、その時、すぐさま何が起きたのかを察知し、緒方は急いで蛭間に拳銃を向けた、「小鳥遊!!」その叫び声に、神室ともう一人の刑事は視線をトイレの方へと向けた、小鳥遊は油断して蛭間によって頸動脈を切りつけられてしまい、首もとから溢れてくる血を抑えながら意識を失ってその場に倒れた、「畜生……蛭間ーー!」緒方は怒りを露にして拳銃を強く握り締めた、「待つんだ緒方!奴は生かしたまま警視庁へと連行する、」 「そんなこと言ってる場合ですか警部!」 すると、蛭間はガラスの破片を持ったままゆっくりこちらを振り向いてきた、「ヘッェへェへェへェへェ!」蛭間は不吉に笑いだし始め、ゆっくりと被っていたフードを下げた、「ブッ殺してやるよ!蛭間ぁぁぁ!」次の瞬間、蛭間はガラスの破片を振り上げながら緒方の元へと走ってきた、「止めろ!」 「バーーーン!」
二号車にデカイ一発の銃声が鳴り響いた。
「バタン!」その頃吾妻は、逃走した黒いダウンを羽織る若い男を追いかけるため、5号車を通過し4号車へと移動していた、「はぁ、はぁ、」4号車に座る周囲の乗客を見渡しながらどうにか吾妻は息を殺すように、若い男を探し続けた、「あの男は、きっと何かを知っている筈だ、あの男が見知らぬ人物の正体なのか?」 必死に周囲を見ながら、心の中では次々と疑問が積もっていった、等々4号車に乗る全ての乗客を確認し終えるも、例の若い男は見つからなかった、吾妻はそのまま次の三号車と四号車を繋ぐ連結部屋の扉を開いた、「バタン、」4号車の扉がゆっくりと閉まったその時、ふと横に何物かの気配を感じ、慌てて横を振り向こうとしたその時、あの黒のダウンを羽織る若い男が吾妻に襲いかかってきた、吾妻は突然の横からの力によってドア部分に背中を打ち付けらた、「ドン!」 するとすぐさま若い男は右手で吾妻の顔面に向けてパンチを振りかぶってきた、咄嗟の判断で、吾妻は男のパンチをキャッチするも、すぐさま逆の左手が吾妻の腹部を直撃した、「グフッ!」思わず吾妻は腹を抑えて壁へともたれ込んだ、「お前、どうして俺を嗅ぎ付けられた?、お前はどっち側の人間なんだ!」すると若い男は、吾妻のボストンバッグに入れてあった拳銃を取り出した、「グフッ、それはこっちが聞きたい、お前が、俺に連絡してきたLINEの相手か!」 すると、吾妻がそう発言した瞬間、若い男の表情が一変した、「おい、聞いてるのか?お前は誰なんだ!」 その時だった、突如三号車の扉が開き、ゆっくりと男が入ってきたと思いきや、その男は全身血だらけの瀕死状態で真ん中の通路へと倒れた、「た…たすけ…助けてくれ、」その時、倒れた男の近くに座っていた葛城はその男が、警視庁の緒方だとすぐにわかった、葛城はその瞬間、考える隙もなく何が起きたのかを察知し、意を決して立ち上がった、「皆逃げろぉぉぉぉぉぁぉ!」 その叫び声に連結部屋にいた吾妻と若い男は三号車の車内へと目を向けた。
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