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きっと人は皆、秘密を抱えて生きているところがあるはずだ。
男なら、心の中に隠したものの一つや二つぐらいある。
女なら、心の中に隠した恋の一つや二つぐらいある。
誰もが気持ちを100%表現できない。
本音ってやつは、ここぞって時に出した方が効果的だと、高校時代の恩師が言っていた。
僕は梅雨空の下、やたらと濁って見える街角の壁にもたれて、その恩師が来るのを待っている。
昨日、不意に電話がかかってきた。
どうやら高校時代の恩師は、僕に伝えたい話があるらしい。
空は一面、白に薄い黒を混ぜたようなグレー。今にも降り出しそうで、今にも泣き出しそうな僕の気持ちによく似ている。
気づかないうちに、一人置き去りにされた感覚。せかせかと歩く人たちが、僕を眺めては嘲笑しているようで、思わず俯いて顔を隠したくなる。
そんな時、
「宙くん」
と誰かに呼ばれて顔を上げた。
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