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1話
イサギは男だが、可愛い物が大好きだ。
年齢は二十歳なのに、ウサギや子猫などの小さくてかわいらしい物に目がなかった。
イサギの外見は金色の髪に緑色の瞳、甘い顔立ちにすらりとした長身が印象に残る。世間一般でいえば、美男子といわれる外見だ。
だが、この可愛い物が大好きなのと意外と無口なのとで女性にもてた例(ためし)がない。イサギは両親と厳つい兄二人に長身の妖艶な美人な妹と六人家族で暮らしていた。
イサギは今日も外にいる子犬を目で追いかけてはぼうとしていた。
そんな様子を傍らで見ていた妹のリゼッタはため息をついた。
「…兄さん、また子犬を見ているの。そんな顔していたら、気味が悪いったらないわ」
怖気がすると言われてイサギはリゼッタを睨みつけた。かなりの敵意のこもった目つきである。
「悪かったな。俺はもともと、小さくて可愛らしい物が好きなんだ。それを気持ち悪いと言うなど。お前の方がどうかしている」
「…兄さんは十分、気味が悪いわよ。あたしになかなか恋人ができないのは兄さんのせいでもあるのに」
「そうか。お前には悪いとは思っている。だが、ウサギや子犬に子猫。小鳥にももんが。あれらは愛くるしいぞ」
恍惚とした表情で語り出した兄に本格的に寒気を感じた炎色の髪に青い瞳のリゼッタはゆっくりとその場から遠ざかった。
「…母さん、イサギ兄さんは今日も可愛い物について語っていたわ。もう、我が兄ながら、気色悪くて適わないわ。そのうち、女装とかしたりしないでしょうね。なんだか、先行き不安なの」
リゼッタがそう訴えるとイサギと同じく金色の髪に青い瞳の女性こと、母のイリーナはまあと声をあげた。
「イサギったら、またなの。あの子は小さい頃から変わらないわね」
そして、娘のリゼッタと同じくため息をついた。
「母さん、兄さんはこのままだと三十を越しても独身のままのような気がするわ。何とかして、身を固めてもらいたいのよ、あたしは」
「そうはいっても、イサギのお眼鏡にかなう娘さんがいればいいのだけど。あなたみたいな大人っぽい人はダメみたいだしね」
「…そうなのよね。あたしを引き合いに出されても困るけど」
イリーナとリゼッタは二人してどうしたものかと頭を悩ませた。
それから、夜になり、リゼッタは父のタウロスにイサギのことを相談してみた。
「父さん、母さんとも昼に話し合ったのだけど。イサギ兄さんのことで相談したいことがあるの」
「…何だ、改まって」
白い物が混じったリゼッタと同じ炎色の髪と緑色の瞳の中年の男性であるタウロスは驚いた表情をする。リゼッタは真剣な顔でこう言った。
「イサギ兄さんて可愛い物に目がないじゃない。そのせいであたしもなかなかお嫁に行けてないし。ことあるごとに兄さんのことを理由にフられてきたでしょう?」
「…そうだったな。イサギの可愛い物好きを盾に取って、婚約破棄をされたこともあったが」
「…だから、兄さんが気に入りそうな女の子を連れてきたらいいんじゃないかと思ったの。要はお見合いでもさせれば、兄さんのことであたしも少しは困らなくなるし」
ふむと頷いたタウロスにリゼッタは作戦の細かい内容を話した。
そして、後からやってきた母のイリーナや兄たちとイサギのお見合い作戦を話し合ったのであった。
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