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36話
二人の結婚式が終わると披露宴も行われた。
兄たちやその同僚たち、上官、妹のリゼッタの友人たちや家族などが大いに盛り上がった。皆、思い思いに酒や食事を楽しんでいる。いわゆる立ち食い形式で披露宴は成り立っていた。兄たちの同僚は中に酔っ払って絡む者もいた。イサギにも絡んできて泣いてしまう。
「…イサギ君。俺らより、早々と結婚しちまいやがったな。ちょっと前までは可愛いもの大好きなおかまだったくせして。やるときはやるよな〜。あー、悔しい!」
彼はそう言いながら泣き出してしまった。だが、おかまという言葉にイサギの笑顔は凍りついた。それに気づかずに同僚の男は泣き続ける。
「…だから、ウツギさん。俺はおかまじゃありませんよ。可愛いもの好きなのは確かですが。男はさすがに抱きませんよ」
黒い笑顔で言い切る。ウツギと呼ばれた男はさすがにイサギの声が冷たく低いものになっている事に気づいたらしい。
「…イ、イサギ君?」
「ウツギさん。妻の前では俺の事、おかま呼ばわりしないでくださいよ。おかまと言ったらぶん殴りますからね?」
瞳を細めて笑っていた顔を真顔にする。それだけでイサギが本気で怒っているのを察知したのだろう。ウツギは必死に謝りながらすたこらと逃げていった。それにため息をつきながらリューネの元に戻る。
不安そうにする彼女に大丈夫だよと笑いかけた。安心したらしいリューネは同じように笑った。
「…イサギ様。先ほど、どなたかとお話をしていたようですけど。知り合いの方ですか?」
「ああ、彼はウツギさんといってね。次兄の同僚なんだ。第一騎士団の所属の騎士だよ」
「へえ。兄君様の同僚の方だったんですね。道理でイサギ様の事をご存知なわけだわ」
ふうんと頷いたリューネにイサギは困ったように笑う。
「…彼は明るい性格なんだが。少し口が軽くてね。僕、いや。俺に何かというと突っかかってくるんだ」
はあとリューネが言うとイサギは彼女の頬を撫でた。
「まあ、気にしなくていいよ。じゃあ、もうそろそろ退場しようか」
「…はい」
リューネが頷くとイサギは手を引いた。
イサギは父のタウロスと母のイリーナに目配せをした。二人ともすぐに気づいて了承の意味で小さく頷いてくれた。それを確認してリューネの手を引っ張って寝室へと急いだのだった。
新婚初夜で久方ぶりに二人は気持ちが高ぶっていた。イサギは性急にリューネのドレスを脱がすとコルセットの紐も器用にほどいてしまった。キスや愛撫も忘れない。リューネは普段よりも敏感になった自分の体に驚いていた。半年もしていなかったのでそのせいもあるのだろうか。
が、イサギに生まれたままの姿にされて考える余地は無くなってしまう。イサギは熱の籠った目で見つめると深いキスをしてくる。以前よりも感度が良くなったリューネにイサギは密かに悦んでいた。やはり、経験のないリューネは開発のやりがいがある。
そうほくそ笑みたいイサギはリューネを翻弄した。しきりに高い声をあげる彼女にイサギは熱い杭を穿たつ。
より、リューネの中は締まり、イサギは持っていかれそうになる。それを何とか我慢しながら、律動を繰り返した。最初は緩やかなものに始まり、次第に激しいものに変わっていく。
「…ああっ!」
リューネが一際高い声をあげて体を反らせた。絶頂が近いらしい。
イサギも律動を激しく荒々しいものに変える。爪先をぴんとさせてリューネは達したらしかった。それと同時にイサギも精を放った。くたりとリューネがなり、イサギも荒い息をつきながら彼女の上に覆い被さる。
「…久方ぶりにしたから、我慢ができなかった。辛くはないかい?」
イサギが小声できくとリューネは首を横に振った。
「…いいえ。そんな事はありません」
そうかと言いながらリューネの額に張りついた前髪をどけてやった。汗で湿っている。イサギも額に汗をかいていたがそれは気にならない。
「…悪いけど一回だけだと足りないな。もう一回する?」
誘うように言えば、リューネは顔を赤らめた。無言であったが頷いた。それに気を良くしてイサギは第二戦を開始した。
その後、二人は朝を迎えるまで互いを求めあったのだった。
結婚式から一週間後にキエラ邸のあるイスレ領から王都のマグレーニを目指してイサギとリューネは出発した。イスレ領からは五日ほど掛かる。
馬車にイサギとリューネは隣り合って座り、対面する向こうの席には侍女のシェリナが座っていた。イサギとリューネは仲良く手を繋いで窓から見える景色を楽しんでいた。
それから、中くらいの宿に泊まったりしながら五日掛けてマグレーニに到着した。既に子爵の位をルイから受け継いだイサギは別邸の門の前で馬車を停めさせた。下りると二人を出迎えてくれたのはリチャードに似た執事と侍女が五名ほどだった。イサギが執事に視線を向けると彼は恭しく頭を下げた。
「…よくおいでくださいました。イサギ様、わたしはこちらの別邸の管理と執事を任されております、名をルノーと申します。元はセアラ子爵、大旦那様の執事をしていました。以後、お見知りおきを」
「…ああ、丁寧な挨拶をありがとう。早速だがルノー。別邸とはいえ、子爵としての執務はしっかりやるつもりだ。引退なさったルイ様の跡はしっかり継ぐつもりでいる」
「…そうですか。それはようございました。では、旦那様。奥様と中へお入りください」
黒髪に薄茶の瞳のルノーは柔和に微笑んだ。イサギはそれにしっかりと頷いたのだった。
セアラ子爵家の別邸にてイサギとリューネの新婚生活は始まった。リューネも子爵夫人として忙しい日々を送る事になる。イサギの執務や領地の運営を彼女は手伝い、二人で領主として仕事をこなした。
そうするうちに二年が経った。イサギとリューネに待望の男児が生まれる。
二人は息子に母方の祖父の名をもらい、アサギと名付けた。アサギは元気が良く、やんちゃだが利発な子に成長する。
後にイサギとリューネにはアサギを含めて三人の子が生まれた。娘が一人と息子が二人であった。
二人は生涯、仲が良くて万年新婚夫婦のようだったという。そして、不思議な事に同じ日に亡くなったらしい。
墓地に葬られる時に三人の子供たちの提案で一つの棺で埋葬された。王都の片隅で静かに眠りにつくことになる。
長男のアサギがセアラ子爵の位と土地を引き継いだ。彼の子孫は代々、庶民でありながらも子爵の養女になったリューネを見習って慎ましい生活を送った。
そう歴史書には記されているようだ。
―完―
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