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10話
あれから、一ヶ月が経った。
イサギと婚約してからはずっと、花嫁修業に励んでいたリューネは少しは礼儀作法が上達していた。食事の作法も覚えたし、お辞儀や紅茶もまずまずはできるようになっている。
だが、イサギとは二日か三日に一度しか会っていない。それが物足りなくはあった。
その間、額や頬に口づけをされるくらいで手を出されていないのだ。
これも挨拶くらいだと思うようにしていた。
いつものようにイリーナの部屋で礼儀作法を習う。今回はダンスのステップや他の手順についてだった。
「今日からは夜会などで踊る必要もあるだろうから。ダンスを教えます。後、歌や竪琴も習ってもらいます」
たくさんある課題をこなさなければならない事を改めて知らされた。リューネは落ち込みそうになる気持ちを無理矢理に押さえ込む。
「…ダンスと歌に竪琴ですね。それと紅茶の入れ方にお食事の作法。たくさんあってできるようになるか不安です」
「でも、あなたはよく頑張っていますよ。この調子だと婚約の祝賀パーティーにまでは間に合いそうね」
「え。祝賀パーティーですか?」
「ああ、話していなかったわね。これから、二ヶ月後に婚約した事を正式にお披露目するためにパーティーを開くのよ。それまでにあなたには貴族のご令嬢としての基礎を学んでほしかったの。だから、この邸にあなたを留めさせたのよ」
「そうだったんですか。そんな事情があるとは知りませんでした」
リューネはため息をついた。そんな思惑がキエラ家にあるとは露とも気づかなかった。
イサギも知っていたなら教えてくれればいいのに。
内心でそう思ったリューネだった。
そして、ダンスの授業になった。相手役は執事のリチャードがやってくれる。
本当はイサギがいればいいのだが、彼は王都に行っていていない。
なので、代役としてリチャードが選ばれたのであった。
ピアノはリゼッタが弾く事になった。
「…リューネさん。あなたがダンスをできるようになるまではあたしもつき合うから。頑張りましょう」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ふふっ。最初に比べたら言葉遣いも様になってきたわね。兄さんはいないけど。でも、その間にダンスを練習して見返してやりましょう」
「…お手柔らかにお願いします」
リューネが困惑した様子で答えるとリゼッタは笑みを深めた。
「そんなに堅くならないで。あたしはね、兄さんがいつまで経っても恋人の一人も作ろうとしないのに腹が立ってね。だって、あの兄さんが可愛い物ばかりを集めたりしているという噂のせいでせっかくの婚約を破棄された事があったのよ。それで仕返しとしてお見合いを無理にセッティングしたの」
「はあ、それであたしが選ばれた訳ですか?」
「そうよ。相手はある程度年下で可愛い女の子に限定して、その中からあなたを選んだの。まあ、兄さんも少しはリューネさんに興味を持っているみたいだけど。作戦は成功したみたいね」
悪戯っぽくリゼッタは笑った。
それには呆然となるリューネだった。
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