14話

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14話

 イサギがやっと、リューネを放したのは彼が目を覚ましてからであった。 「…リューネ、おはよう」 甘い笑顔でそう言うとイサギはリューネの額に軽くキスをした。 「これくらいだったら、いいだろう?」 「…まあ、よしとします」 顔を赤らめながら頷いたリューネを可愛らしいと思いながら、イサギはそっと抱きしめたのであった。 そして、侍女がリューネを迎えにきた。 「リューネ様、わたしです。シェリナです」 扉を鳴らしながら声をかけてきたシェリナを迷惑に思いながらもイサギは自ら開けに行った。 この時、イサギは白いワイシャツと薄茶色のスラックスといった姿だった。 髪は寝乱れて胸元はボタンを二つか三つ開けていてしどけない格好をしている。それを見たリューネはまた、心臓が跳ね上がるのを感じた。扉を開けるとシェリナがきちんとした制服を着て佇んでいた。 「…ああ、シェリナか。リューネを迎えに来たんだね?」 「当然でございます。リューネ様と一晩を過ごされたとしてもまだ、若様は結婚なさってはいません。ですから、けじめはきちんと付けていただきます」 「わかったよ。リューネ、こっちへおいで。シェリナが来ている」 低い掠れた声で呼ばれてリューネは顔を赤らめながらも慌てて扉の近くまでやってきた。 「ああ、ようございました。若様にきつく当たられていやしないかと心配だったのです」 「人聞きが悪いな。リューネを手ひどく扱う訳がないだろう」 イサギはばつが悪そうに髪をくしゃりとかきあげた。 「それでもでございます。リューネ様に何かあったら、旦那様や奥様、故郷のご両親方に示しがつきません。ましてや、親戚筋の方の養女にしていただくのです。傷が付いたりしたらいけませんわ」 「わかったよ。まだ、夜は明けきっていないから。今の内にリューネを連れて行くといい」 「かしこまりました。さ、お嬢様。行きましょう」 リューネはシェリナに手を引かれながら、イサギの部屋を後にした。 自室に戻るとシェリナは寝室でもう少し休んだ方が良いと勧めてきた。 その好意に甘えて、リューネは寝室に行って二度寝をする。昨日は刺激的すぎたのか思ったより疲れていたようだ。そのまま、ベッドに横になると眠気が一気にくる。 リューネは瞼を閉じて眠りについた。 目を覚ましたのは日が高く昇ってからであった。 シェリナがあらかじめ用意してくれていた軽食を食べて、食後にハーブティを淹れてもらい、少しだけ休憩を取った。 「…お嬢様。今日はダンスそのものを練習するそうです。リゼッタ様がイサギ様にも一緒に参加してほしいと頼まれたようで」 「えっ?!イサギ様とダンスを練習するの」 「はい。リチャードさんが相手役になるよりもイサギ様と直に踊った方が効率も良いだろうとのことでして」 リューネは持っていたティーカップを落としそうになった。昨日、裸を見られて濃いキスまでされたのだ。平然と顔を合わせられる訳がない。 そんな彼女の変化に慌てるシェリナであった。 リューネは軽食を食べ終えると身支度を始めた。常の通り、髪を結い上げてドレスを着る。 アクセサリーは銀製のシンプルなネックレスだけで薄化粧をしている。下にはコルセットをしているが昨日、イサギがはずしてくれたのを思い出して顔が熱くなってしまった。 それをシェリナに心配されながらも何とかつけてもらった。そして、リューネは自室を出るとダンスホールに向かった。
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