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15話
リューネがダンスホールの中に入ると、そこにはリチャードやリゼッタ、イサギの三人の姿があった。
リチャードは黒の蝶ネクタイに同じ色の背広にズボンを履いている。シャツにはしわ一つない。
リゼッタは薄めの赤色のドレスに同じ色らしいピンヒール、髪は上の部分だけを緩く結い上げていた。
胸元には金の鎖にルビーの宝石が連ねてあるネックレスをしている。
ダンスの為にこのような格好をしているらしい。
イサギも淡い茶色のネクタイに同系色の背広、ズボンという格好だ。靴も先の細い似たような色の革靴である。
「…あの、イサギ様もダンスの練習をするんですか?」
リューネが思わず言うと彼女に気が付いたらしいリゼッタが答えた。
「そうよ。リューネさんがリチャードを相手にダンスを踊ったと兄さんが聞いてね。何で、婚約者であるのに他の男を相手にさせたんだと怒っちゃって。それで今日は兄さんと一緒に踊る事になったの」
「…リゼッタ。ちょっと、いいすぎだ。リューネ、長い間、放ったらかして悪かったよ。これからはなるべく君と一緒に過ごせるよう、頑張るから」
申し訳なさそうに笑いながら言われて、リューネは固まった。顔は熱くなっていて、また昨日の事を思い出してしまう。
「…リューネ、どうしたんだい?」
「い、いえ。何でもないです」
「そう?だったら、いいんだけど」
妙な二人を見て、リゼッタはしめしめとほくそ笑んだ。
(この調子で行くと、兄さんの女嫌いも改善されたみたいね。とりあえず、第一段階はよし、と)
一人、内心喜んでいたのであった。
その後、リゼッタの伴奏を合図にダンスのレッスンを開始した。肩や腰に手を添えられて、ゆっくりとステップを踏んだ。
最初はリチャードにステップを教えてもらっていたため、何とかイサギの足を踏まずにすんでいた。だが、実際に踊ってみるとかなり勝手が違う。
「…リューネ、とりあえずは僕の顔を見て。それから、ある程度は委(ゆだ)ねてくれて良いから」
耳元でささやかれて、さらに緊張しながらも言われた通りにしてみる。イサギは正解といわんばかりに笑ってくれた。
「リューネ殿、顔の表情が堅いですよ。もっと、力を抜いてください」
リチャードからも注意をされる。
なかなか、できないままにダンスのレッスン一日目は終わりを迎えた。
リューネは筋肉痛の為、早々と湯浴みをすませて、夕食も終えていた。シェリナはお疲れさまですと言って続き部屋に入っていった。
そこで待機しているらしい。
身分の高い方も大変だなと思う。
ため息をつくと寝室に向かって歩いていった。
そんな時に扉を軽く叩く音がする。リューネは自分で開けに行った。
扉を開けて、誰かを確認しようとする。
「…夜分遅くにごめん。ちょっといいかな?」
少し掠れた声が聞こえて頭を上げたら、そこにはイサギが立っていた。
「イサギ様。どうしたんですか?」
「その。昼間の練習で疲れていないかなと思って。それで来たんだ」
顔を少し赤らめながら言ったのであった。
「リューネ、今日は君の部屋に泊めてもらえないかな」
爆弾発言をされて思いっきり、リューネは混乱していた。
「…あたしの部屋にですか?」
「うん。昨日は僕の部屋に泊まっただろう。だからだよ」
「わかりました。でも、変な事はしないでくださいよ」
わかったよと言って、イサギは笑った。リューネはため息をまたついたのであった。
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