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21話
イサギとリューネの婚約披露のパーティーまでに半月を切っていた。
その間、イサギもリューネもあわただしい日々を送っていた。妹で義姉に当たるリゼッタやイサギの母のイリーナ、父のタウロス達も忙しくしていた。
リューネは礼儀作法などを完璧に近い所まで修得し、ご令嬢方と並べても遜色ないくらいに成長している。彼女達が住む国、フローネ王国は成人年齢を男女ともに十八歳と定めていた。
なので、イサギが結婚したくても本当は法律上、よろしくない。
仕方なく、リューネをセアラ子爵家に預ける事を了承したのだ。が、それをリューネ本人は知らない事であった。
「…リューネさん。今日はゆっくりとしているわね」
リゼッタがサロンで紅茶を飲んでいたリューネに声をかける。彼女達の他には人がいない。
「リゼッタさん。ええ、イリーナ様からお休みをいただきましたから」
口元に持ってきていたカップをソーサーに戻した。リゼッタは歩いてリューネの座る方の向かいにある一人掛けのソファに座った。
「もう、夏が近づいてきたわね。日差しも強くなってきたから、日傘や日除けがかかせないわ」
「そうですね。わたしはそんなに気にしませんけど。適度に日に当たる方が健康には良いと聞きました」
「そうね。本当はその方がいいらしいわね」
リゼッタはしかめていた顔をそのままに頷いた。リューネはそれを見ながら、さらにこう言った。
「あまり、肌が白くても不健康に見えます。適度に日に焼けた方がいいと医師から聞きました。わたし、日傘はいりませんから。リゼッタさんがお使いになってください」
堅い表情で言い募るリューネにリゼッタは驚きを隠せずに眉を寄せる。
「…リューネさん。何を言い出すのかと思えば。わたしを気にかけてくれるのはうれしいけど。肌は白い方が良いに決まっているわ。日に焼けた方が良いだなんてまやかしよ」
「そうでしょうか。わたしはそうは思いませんけど」
「リューネさんは貴族とかの常識が通じないのね。けど、肌が焼けていたら、ドレスとかを着た時に困るわよ。それは覚えていてね」
わかりましたと返事をリューネはする。ほっと一息ついたリゼッタであった。
翌日、リューネはイサギやリゼッタなど、キエラ家一同、使用人の主な者達と共に都の別邸に出発する事になった。馬車は一台目にキエラ家当主夫婦のタウロスやイリーナ、二台目に兄二人と執事のリチャード、三台目にイサギとリューネ、四台目にリゼッタや侍女達三人が乗り込んでいた。
もう一台の馬車の中にもタウロス夫妻の侍女やイサギ付きの侍女、リューネ付きのシェリナなど四人が乗り合わせていた。別邸にも使用人がいる。けど、主人の事をよく心得た者達がいた方がいいとのタウロスの判断で一人か二人ずつ各々選んで連れて行く事にしたのであった。
さて、一緒の馬車に乗ったリューネといサギであったが。二人は向かい合う形で座っていた。
「…リューネ。緊張しているみたいだね」
微笑みながら尋ねたイサギにリューネは恥ずかしそうにうつむきながら答える。
「そりゃ、緊張くらいはします。お披露目パーティーに出るのも初めてなんですから」
「確かにそうだね。君は今までよく頑張ったと思うよ。後もう少しだ」
そう言いながら、イサギは手を伸ばした。リューネの柔らかな赤茶色の髪をそっと撫でる。
「君を解放できるのも近い。それまでの我慢だよ」
「…イサギ様」
リューネは何かを言おうと口を開いた。だが、それ以上、言葉は出てこなかった。不思議そうにするイサギに何でもないとリューネは首を横に振ったのだった。
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