22話

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22話

 あれから、数日が経ち、イサギとリューネ一行は王都にたどり着いていた。  王都の別邸はリューネ達のいた村の地主、領主の邸よりも格段にしゃれて品がある感じだった。イサギは現国王やその他の高貴な方々について簡単に説明をしてくれる。 「…現国王は名をヘルムート陛下とおっしゃる。お年は確か、僕よりは上だったはずだ。今年で二十七歳になられるかな。ご性格は穏やかで冷静な方らしいよ。後、ご正妃様も名をイザベル様とおっしゃってね。こちらはお年が二十五歳くらいになられる。見かけはおとなしやからしいけど、なかなか明るくて活発な方だと聞いた」 「…へえ。そうなんですか。ヘルムート陛下は外見はどんな感じでいられるんでしょう?」 リューネが興味深げに問いかけるとイサギは困ったように笑う。 「外見か。そうだな、僕は陛下に直接謁見をしたことがないから。ただ、こちらの別邸には陛下と王妃様の肖像画が飾られているからね。それを見たら、わかると思うけど」 イサギが答えるとリューネは今まで歩いていた足を速めた。二人は話しながら、別邸の庭を突っ切っていたのだ。 「だったら、早く中に入りましょう。管理人さんや他の人達に挨拶はしなくちゃいけないけど。それが終わったら、陛下の肖像画を見せてくださいね。約束ですよ?」 後ろを振り返ってリューネが言うとイサギは仕方ないと肩をすくめながら、首を縦に動かして了承したのだった。 しばらくして、別邸の管理人夫婦と他の使用人達と簡単な挨拶をすませる。リューネはシェリルと共に侍女の一人に自分用の部屋を案内してもらい、寝室や居間、応接間の場所を教えられた。他にクローゼットや洗面所、浴室にお手洗いなども部屋に付いていて、それらを説明される。 細々とした事が終わると侍女はシェリナと共に部屋を出て行く。それを見送り、リューネは居間のソファにくずおれるように座り込んだ。 一気に疲れがきて、イサギとの約束どころではなかった。 そのまま、眠りに落ちてしまったのであった。 あれから、どれくらいの時間が経ったのか。リューネは肩を揺すられて目をさました。 意識が浮上してゆっくりと瞼を開ける。 「…リューネ様。もう、夕方ですよ。ご夕食をおとりにならないと体に悪影響を与えます」 冷静に言ってきたのはシェリナだった。彼女の言葉を聞いて、一気にまどろみから覚醒した。 「え。もう、夕方なの?」 「はい。今日と明日はゆっくりとお休みになればいいと旦那様はおっしゃっていますけど。お披露目のパーティーまでには体調を整えておきませんと。イサギ様や招かれた方々に失礼になります」 「そうよね。シェリナ、夕食を食べるわ。用意をお願い」 短く答えるとシェリナは真面目な顔で頷き、部屋を出て行った。リューネはお腹が控えめに鳴るのに気づいて、知らず知らずの内に思ったより長い時間、眠ってしまっていた事に気が付いた。 夕食が運ばれ、一人で食べているとふいに家での光景を思い出した。家具屋の実家にいた頃はこんな立派な部屋や食事ではなかったけど、楽しく和気藹々とした雰囲気だった。 けど、今は見かけは優雅で上品だが中身が虚ろなものに感じられる。一人での食事は味気なく、寂しいものだなとしみじみと思う。 まだ、地主のキエラ本邸にいた頃は当主夫妻やリゼッタやイサギ達と食事を共にしていた。一日と経っていないがそんな心境のリューネだった。 夕食も終わり、湯浴みも終えたリューネはシェリナに手伝われながら、夜着に着替えた。寝室に入り、寝台に潜り込んだ。疲れも手伝って急速に意識は眠りに落ちていく。 そんな時に扉がそっと開けられて、中に人が入ってくるのを気配で気が付いた。瞼を開けると美しい緑の瞳と視線が合う。 金色の髪を見てイサギだとわかる。 「…目をさましてしまったね。ごめん、今日は陛下の肖像画を見せると約束していたのに。できなかった。それで今になって君の部屋まで来たんだ」 低い声でささやきながら謝られた。リューネはまどろみながらも首を横に振った。 「気にしないで。あたしは怒ったりしていないから」 「そう言ってくれると助かるよ。リューネ、三日後にお披露目パーティーだから。それまでに疲れを取っておいてくれ」 「…わかった。おやすみなさい」 そういうと、額に軽くキスされるのを感じた。 そのまま、リューネは完全に熟睡した。イサギが困ったように笑うのを気づくことがなかった。
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