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23話
それから、二日間は別邸はあわただしく、騒がしかった。
まず、当主のタウロスや妻のイリーナが忙しそうにしていた。付いてきた兄達やイサギ、リゼッタも分担して別邸の飾り付けなどを使用人達に指示しながら、両親を手伝っている。
リューネはというと、彼女も暇にしているわけではなかった。時間がある時はパーティーに着るドレスの手直しや宝飾品、髪飾りや靴の注文をしたり、ダンスのステップをシェリナに見てもらったりしていた。
時にはダンスホールに来て、イサギと共に机に飾る花や他の飾り付けなどを使用人達と話し合い、決める事もあった。そんなこんなでパーティーの当日はやってきた。
パーティー当日になり、リューネは非常に緊張していた。エスコート役にイサギが付き添ってはくれているが、それでも体はこわばり、口の中はからからになっている。
何といっても王都から、続々と身分の高い御仁が来ているのも一つの理由ではあった。イサギやリゼッタから、今日来る賓客の名前は一通り、教えてもらっているが。
それでも、挨拶をすませた後は速攻に部屋に帰りたいと思う。今日のために仕立てられた白のドレスを身にまとい、髪は銀製のバレッタで結い上げ、胸元に瞳と同じ色の青の宝石があつらえられたネックレスを付けている。赤茶色の髪には同系色のドレスの方が似合うと言われたりもした。
だが、リューネは今回が初めての社交界デビューである。なので、あえて白のドレスにとイサギが言ったのだが。
恥ずかしいあまりに顔を伏せながら、ダンスホールに続く廊下をイサギと歩く。
「…リューネ。大丈夫?」
心配そうにイサギが尋ねてくる。リューネはぎこちなく顔を上げて、笑う。
「大丈夫です。イサギ様こそ、緊張してないんですか?」
「緊張はしていないよ。君ほどにはね」
イサギが面白そうにしながら言った。リューネはぎくりとなる。
「…ばれてましたか。はい、緊張しています」
「まあ、そんなにがちがちにならなくても良いよ。君と僕との婚約をお披露目するだけだから。挨拶とダンス、これだけをやったら、後は部屋に引き上げてくれたらいい。僕も一緒に行くからさ」
「…はい。すみません」
リューネが顔を赤らめながら言うとイサギは謝らなくていいと笑ったのであった。
廊下を抜けてダンスホールに入る。入り口にはリゼッタと母のイリーナもいた。
「…あら、リューネさん。来たのね。その白のドレス、似合っているわ」
「ありがとうございます。リゼッタさんも赤のドレス、似合っていますよ」
「ふふっ。ほめてもらえてうれしいわ。今日は兄様のためのお祝いの日だもの。気合いを入れたのよ」
リゼッタは華やかに笑いながら扇で顔を隠した。
赤、ワインレッドの胸元が大きく開いたドレスに金のイヤリング、同じバレッタで髪を結い上げている。胸元には金の鎖に赤のルビーが台座にはめ込まれたネックレスがさがっていた。
派手ではあるが赤毛で華やかな顔立ちのリゼッタによく似合っていた。母のイリーナも薄い藍色のドレスに銀細工の髪留めをして落ち着いた感じの装いだ。
それらを見ながら、リューネはため息をついた。
ダンスホールに入り、イサギは早速近づいてきた人々と談笑し始める。リューネは黙ってそれを眺めていた。
後ろにはリゼッタとイリーナや父のガレスが控えている。
「…今日はお招きいただいてありがとうございます。イサギ殿、婚約おめでとうございます」
イサギと談笑していた男性がにこやかに笑いながら、祝福の言葉を口にした。イサギも穏やかに笑いながら答える。
「こちらこそ、ありがとうございます。ああ、リューネ。ちょっと、こっちに来てごらん」
ふいに、呼ばれたのでリューネは裾を踏まないように気をつけながらイサギの側まで近づいた。
「…こちらは君の義理の父君になるルイ・セアラ子爵だ。隣にいられるのが奥方のイリス様。今日は君と会うために来られたんだ。挨拶くらいはしておくといいよ」
「…わかりました。セアラ子爵様。わざわざ、来ていただきありがとうございます。私はリューネと申します」
微笑みながら、自己紹介をすると男性ことセアラ子爵は驚きながらも頷いた。
白いものが混じった薄茶色の髪に淡い緑色の瞳の穏やかそうな男性である。顔には少しながらしわがあるも年齢は五十くらいに思われた。
「…ほう、これはこれは。イサギ殿にはもったいないくらいにできたお嬢さんだ。しかも、なかなか可愛らしい。こんな娘だったら、今すぐにでもうちに来てもらいたい。なあ、イリス?」
子爵が呼びかけると側にいた四十代後半くらいの女性も頷いた。
「ええ。とても、可愛らしいお嬢さんですわ。ああ、確か。リューネさんでしたか。わたくしがルイ様の妻のイリスです。よろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。イリス様」
「…リューネさん。あまり、堅苦しくなさらなくてよくてよ。楽になさって」
イリスは子爵に劣らぬ穏やかな笑みで話しかけてきた。
それを見ながらも驚くリューネであった。
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