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4話
馬車に揺られながら、リューネは窓の景色を眺めていた。
その様子をリチャードは静かに見守っている。
中にはふかふかのクッションが敷き詰められていてあまり、振動は感じない。
内装は薄いクリーム色が基調になっていて気持ちを落ち着かせてくれる。
「…リューネ殿、緊張されているようですが。大丈夫でしょうか?」
リチャードから尋ねてきたのでリューネは驚いてうつむいていた顔を上げた。
「あの、何でしょうか?」
「いえ。緊張されているのかと思いまして。大丈夫かと聞いたのです」
「…かなり、緊張はしています。体調は大丈夫だと思いますけど」
からからに乾いた声で答える。
リューネは両手をぎゅっと握りしめると目を閉じた。心臓がばくばくと激しく鳴っている。
それを抑える為に深呼吸をしたのであった。
それから、一時間近く経って、地主ことキエラ邸に到着した。
リチャードに助けられながら、馬車を降りたリューネは邸の大きさに圧倒されていた。
「…うわあ、やっぱりうちとはえらい違いね」
「リューネ殿、タウロス様方がお待ちかねです。行きましょう」
促されてリューネは慌てて、リチャードの後を追いかけた。
歩いて、邸の中に入る。扉を開けて一歩を踏み入れた途端、別世界が広がっていた。
赤地に繊細な花の模様がかたどられた珍しい柔らかそうな絨毯に落ち着いた色調の壁紙、ライトも白い花をかたどった物でリューネは見とれてしまった。
リチャードがこほんと咳払いをすると、向こう側に見える階段から、金髪に青の瞳の中年の男性と赤茶色の髪と緑色の瞳の女性が降りてきた。
少しして、玄関に二人が到着するとリチャードが紹介をしてくれた。
「…リューネ殿、こちらが我が主のタウロス様と奥方のイリーナ様です。お二人はイサギ様のご両親にもなりますから、失礼のないように」
ぴしりと注意をされて少し、むかっときたが。
リューネはワンピースの裾を持ち上げて、膝を曲げ、一礼をした。
「初めまして、リューネ・アロウと申します。以後、お見知り置きを」
自己紹介をして姿勢を元に戻すとイリーナがリチャードに言ってきた。
「挨拶はここまでにしておきましょう。時間がないから、リューネさんを早速イサギのところへお連れしますよ」
そういって、イリーナは何と、リューネの手を握ってきた。驚いているとぐいっと強く引っ張られる。
「…悪いけど、イサギに逃げられるとこちらも困るのよ。リューネさん、早速だけど応接間に案内するわ」
イリーナに引きずられながら、リューネは応接間まで向かったのであった。
「イサギ!お見合い相手のリューネさんをお連れしましたよ。挨拶くらいはなさい」
扉を乱暴に開け放ちながらイリーナは貴族の奥方らしくない口調で叱りつけた。
「…わかっていますよ。母上、無理矢理なお見合いとはいえ、挨拶くらいはできます」
うんざりとした青年の声が聞こえてリューネは顔を上げた。そこには金色の髪に 緑色の瞳、白い肌をした背の高い青年がいた。
顔立ちは甘いといってよく、美男という言葉が合う。
「あの、イリーナ様。手が痛いです」
リューネがとっさにそう言うとイリーナは慌てて、手を放してくれた。
「あら、ごめんなさい。わたしとしたことが」
おほほと笑い声を立てながらイリーナはリューネに謝ってきた。だが、すぐに鋭い視線に気づいて顔をそちらに向けた。イサギがまっすぐにリューネを見据えていた。
それに身を竦めながらもイリーナの勧めでソファに二人とも座ったのであった。
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