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5話
イリーナがリューネをソファに座らせるとイサギも同じように落ち着いた。
そして、侍女にお茶や菓子を用意させると後は若い二人でと変な気を利かせて、応接間を出て行った。
必然的に部屋の中は二人だけになる。
緊張しているリューネは両手をさらに強く握りしめた。その様子を不機嫌そうにイサギは見ている。
「…ねえ、君。そんなに固まっていないで何とかいったらどう?」
だんまりは嫌になったのか仕方なく、イサギはリューネを軽く睨みつけながら、話しかけてみた。
その内容はとげがあるものではあったが。
「…あたしはその」
「その?」
「あなたの相手として来ました。先ほど、紹介をされましたけど。名をリューネといいます。お断りになりたいのだったら従います」
リューネは浅く呼吸をしてから、自分が思っていた事をはっきりと言ってみせた。すると、意表を突かれたのかイサギは驚いたらしく、緑の瞳を見開いた。
「…僕が君との縁談を断ると?」
「はい。小さくて可愛らしい女性がお好きだと伺いました。でしたら、あたしはあなたの好みには当てはまりませんから」
だから、断っていただいてもかまいませんとリューネは告げた。
けれど、イサギはリューネをまじまじと見つめたと思うとお腹を抱えて笑い出した。
「…ははっ。君が僕の好みに当てはまらないからか。だから、断ってもかまわないと。何とも面白い事を言う子だね」
リューネは真面目に言ったのにいきなり、笑われて拍子抜けしてしまう。
「なっ。面白いだなんて。あたしは真面目に言ったのに」
「…ああ、君が僕を笑わせるつもりで言ってないのはわかった。悪かったよ。けど、僕は好みに当てはまらないなんて一言も口にしてないのに」
え?とリューネは首を傾げた。
イサギは居住まいを正すとこほんと咳払いをする。
「まあ、初対面だからね。そのように思われても仕方ないか。確か、リューネさんだったね。僕は知っていると思うけど、イサギ・キエラという。今日から、君は僕の婚約者だ。よろしく頼むよ」
「…はい?あの、婚約者って?」
「君に決まっているだろう、リューネ。僕は君を気に入った」
やけにあっさりと言われて、さらに拍子抜けしたリューネだった。
それから、しばらくしてイサギはリューネと手を繋いで応接間を出た。
庭で散策をしようと彼から誘ってきたのだ。
イサギは背は少し高めでやせ気味ではあるが可愛らしい顔立ちをしたリューネを見つめては抱きしめたい衝動にかられる。
ほんのりと頬を赤らめて恥ずかしそうにしている様子がまた可憐であった。
「…リューネ、うちの庭園には赤や白、黄色の他に紫や茶色の薔薇があるんだ。どれも珍しい品種だから、ゆっくりと見ていくといいよ」
「はあ。ありがとうございます」
棒読みで礼を言われたが怒る気はしない。
むしろ、その様子さえ、ほほえましいくらいだ。
「…僕、君のその顔立ちが気に入った。それと潔いところがね。まあ、仲良くしてよ」
にこやかに笑いながら言うとリューネはより、顔が赤くなった。
そして、照れが最高点になったリューネはイサギの手をそっと放して、庭園の奥へと走って逃げてしまう。後を追いかけたイサギが彼女を見つけたのは夕方になってからであった。
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