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6話
庭園を散策した後、夕方になったのでリューネはそのまま、家に帰ろうとした。
だが、イサギやタウロスたちに引き留められた。
「…何、家に帰る必要はない。このまま、泊まっていきなさい」
タウロスが笑顔で言ってきたのでリューネは仕方なく、はいと答えるしかなかった。
夕食は食堂で取る事にしたがリューネは作法や並べられたフォークなどの使い方が分からなかった。すると、同席していたイサギの妹であるリゼッタが近くまでやってくる。そして、小声で言ってきた。
「リューネさん。作法が分からないのね?だったら、あたしが教えてあげる。まずね、フォークやナイフ、スプーンは外側から順番に使うのよ」
ゆっくりと丁寧にリゼッタはフォークなどの使い方も説明をしてくれる。恥ずかしくはあったが教えられた甲斐があって、だいぶスムーズに食事を終えることができた。
その様子をイサギは微笑ましそうに眺めていた。
その視線に気づきながらもリューネは答える事ができないでいた。
そうして、皆、食事を終えると各々(おのおの)の部屋へ帰って行った。後にはリューネとイサギの二人が残されたのであった。
リューネは椅子から立ち上がろうとした。イサギはそんな彼女に声をかける。
「リューネ。どこへ行くのかな?」
机に肘を付きながら、けだるそうに尋ねられた。
「…応接間ですけど」
「…もう夜なのに、何で応接間に行くの?」
「他に行く所がないからです」
うつむきながらもリューネは答える。イサギは意地悪げに笑った。
「…ふうん。今日は君がうちに泊まって行くと決まっていてね。だったら、そうだな」
「何ですか?」
「君、僕の部屋へ来ない?寝室を貸してあげるよ」
かなりの強引な申し出にたちまち、リューネは顔を真っ赤にした。
「なっ!イサギ様の寝室には行けません。皆に誤解されます!」
慌てて言えば、イサギは机に付いていた肘を上げるとお腹に両手を抱えてまた笑い出した。
「…あはは!冗談だよ。まだ会って、一日も経っていないのに。さすがに手を出すような事はしないけど」
「もう、からかわないでください。驚くじゃないですか」
そっぽを向いたリューネにイサギは笑うのをやめる。そして、椅子を引いて立ち上がった。
「…リューネ。僕の家はね、実は王家とは遠い親戚でね。だから、兄さんや僕らは家の為にも子孫を残さないといけない」
だから、結婚を早めにしないといけないんだとイサギは真剣な顔でそういった。いつの間にか、リューネのすぐ後ろまでイサギは来ていた。そして、耳元に顔を近づける。
「だから、リューネには早めに子供を産んでもらわないといけない。そうしないと父上がうるさいからね。まあ、僕は一目見て、君を気に入ったからいいんだけど」
「…待ってください。あたし、まだ子を産むとまでは言っていません」
「僕も焦ってはいるんだよ。妹のリゼッタからはおかま呼ばわりされてるけど」
そういいながらもイサギはリューネを椅子ごと抱きしめた。ほっそりとした体つきからは予想もできない力であった。
耳たぶに軽くキスをされて悲鳴をあげたリューネだった。
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