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7話
その後、リューネはイサギに案内されて、客室に移動した。
「君が使うのはこちらだよ。それから、僕と結婚するまでは邸にいてもらう。母上が君に自ら、貴族の奥方としての心構えや礼儀作法を教えると気構えていたけど」
「…あたしに礼儀作法を?それはちょっと、まだ心の準備ができてないので」
「まあ、そんなに焦ることはないよ。時間はたっぷりとあるんだから」
そして、イサギは扉を開けた。
リューネが中に入るとそのまま、部屋を出ようとする。
「…あの、案内してくださってありがとうございました。おやすみなさい」
「…ん、おやすみ。明日から花嫁修業が始まるから。頑張って」
はあと返事をすると、イサギは扉を閉めて自室へと戻っていった。
翌朝、早い時間からリューネは目が覚めた。
いつもは置き時計の針が五時くらいになったら起きて、店の準備などを手伝っていた。地主の邸に来ていてもその習慣は簡単には抜けきらないらしい。
今は用意されていた白いナイトドレスを着ていた。
下にはブラジャーなどを身に付けていない為、体の線などがはっきりと出ている。
それを気にしながらも薄暗い部屋の中を歩いた。分厚い薄茶色のカーテンを勢いよく開けた。
まぶしい日の光が目に入る。
今は季節が夏に近いから、夜が明けるのも早かった。
リューネが顔を洗おうと思った時に扉がノックされる音が響いた。
「あの、お嬢様。もう、起きておいでですか?」
少し高めの女性の声がした。
お嬢様とは誰の事であろう。部屋を見回したが自分一人しかいない。
はてと首を傾げていたら、もう一度呼びかけられた。
「お嬢様?」
二度目でやっと、自分の事だとわかり、慌てて扉を開ける。
「あの、すみません。何かご用ですか?」
そこには濃い茶色の髪と瞳の背の高い女性が立っていた。穏やかに笑みを浮かべている。
年齢は二十代前半くらいだろうか。
藍色の丈の長いワンピースに白いフリルは付いていないエプロン、髪は後ろでひとまとめにしている。
顔立ちはリューネとは違い、大人っぽくて凛とした雰囲気の美人だ。そんな女性が自分の部屋に何の用だろう。
そう思いながら見つめていると女性はふっと笑いかけた。
「…ああ、私の名を言っていませんでしたね。シェリナと申します」
「シェリナさん。あたしに何か用がありますか?」
「用はありますよ。お嬢様、リューネ様の身の回りのお世話をせよと主から命じられましたから」
その言葉にはリューネは驚いてしまう。
「ええっ?!あたしの事を世話するって。そんな大層な身分ではないですよ!」
「リューネ様。あなたは今日から、イサギ様の婚約者になられました。だから、私がお世話するのです。部屋の中に入らせていただきますよ」
驚くリューネをよそにシェリナは部屋に入ってくる。
カーテンが開けてあるのを確認するとベッドのシーツを取り去ったりし始めた。そして、手早くシーツを取ってしまうと両手に持った状態でリューネに再び、近づいてくる。
「リューネ様、この部屋の右側に扉があるでしょう?そちらに洗面所があります。奥に浴室が。そして、さらに隣の扉がお手洗いとなっています。まずは洗面所でお顔を洗ってください」
てきぱきと説明をされてリューネはあっけに取られる。
すると、シェリナは早くと急かしてきた。言われた通りに洗面所に行ったリューネであった。
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