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8話
顔を洗い、用意されていたタオルで水気を拭う。
そして、洗面所の壁に掛けてある容器の中にあった歯ブラシと歯磨き粉を取る。
歯磨きを始めてしばらくしてシェリナが声をかけてきた。
「リューネ様、シーツの交換が終わりました。後で部屋の鏡台の前に来てください」
声は出せないので慌てて頷いた。
歯磨きが終わると、急いで濡れた口元を拭き、部屋へと向かう。
シェリナがリューネを待ちかまえていて、彼女に椅子に座るように促した。言われた通りにすると、シェリナは赤茶色の髪を丁寧にブラシでとかし始めた。
「まずは髪をとかしましょう。後はドレスを着て、髪に香油をつけます。結い上げもその時です。それから、お化粧もしましょうね」
にこやかに笑いながら、告げられたが。リューネはドレスと聞いて縮み上がる。姉から、高貴な家の女性たちはドレスの下にコルセットを付けたり、かかとの高いヒールを履いたりしているという話をしてもらっていた。コルセットは慣れていないと窮屈だし、痛いものらしいと耳に入れていたので逃げ出したくなる。
「…あの、ドレスではなくてワンピースとかはないんですか?」
「…申し訳ありませんけど。ワンピースは数えるほどしかありませんの。だから、ドレスで我慢してください」
ナイトドレスや部屋着用のワンピースだったらありますと付け加えてくれたが。ドレスを着なければならないのだとリューネはがっくりときた。
シェリナは手早くブラシで髪をとき終えるとクローゼットに向かう。リューネに似合う色のドレスとヒール、アクセサリーを見繕った。
朝食がまだだったがそんなことは気にしていられない。
コルセットなども取り出すと気合いを入れてリューネの元へ戻ったのであった。
「…うっ。苦しい!」
何枚もの下着を付けてドロワーズも着せられ、さらにコルセットで胸やお腹をぎゅうぎゅうと締め上げられている。
「辛抱してください。何度かしていたら慣れますよ」
シェリナはさらりと言ってくれるが締め上げる力はなかなかのものだった。いくつもある紐を器用に結び上げていった。そして、コルセットを締め終わると次はドレスを着せる。
胸元をあまり大きく見せず、詰まったデザインのものだった。
胸から腰にかけて斜めのラインが入っていてほっそりとしているリューネの体をカバーしてくれている。色は淡いクリーム色で丈は足下までのシンプルなドレスであった。
それを着た後再び、鏡台の前に座り、髪に香油を付けて結い上げてもらう。
髪を三つ編みにして円を描くように巻いて布でひとまとめにしたシニョールという髪型に仕上げられる。
最後に化粧水をつけたり、白粉や口紅をつけたりしてお化粧をした後、身支度は完了した。
「よく、お似合いですよ。では、奥方様の元へ行きましょう」
シェリナにそう言われてリューネは鏡を見るのもそこそこに部屋を出た。
イサギの母であるイリーナの部屋へとたどり着くとシェリナが扉を開けてくれた。
「おはよう、リューネ殿。よく眠れましたか?」
ゆったりとソファに座り、イリーナは迎えてくれる。
「おはようございます。今日からは礼儀作法などを教えていただけると伺いました。よろしくお願いします」
リューネは礼をした。
イリーナは早く部屋にと促してきたのであった。
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