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 23時30分、私は一人でA山の中へと入った。  この山にある廃墟では、数年前から夜になると少女の霊が現れるという噂が広まっていた。  最近では人気動画サイトの心霊系配信者たちが月に数回訪れている。  しかし彼女を撮影するのは、なかなか難しいらしい。  そりゃそうだろう。  彼女は姿を見せる相手を選び、決まった時間に同じような辛い経験をした人間にしか姿を現さないのだから。  私は彼女のことを知っている。  彼女の好きな色や、好きな動物、好きな本、将来なりたかった職業、好きだった男の子の名前までも、私は知っている。  私は偶然、ある心霊系配信者の動画を見て彼女の噂を知り、運命のようなものを感じ、真剣に彼女の心の支えになりたいと思い、何度も廃墟を訪れた。  彼女に会える日を楽しみにして、繰り返し、繰り返し訪れた。  ある日、彼女が私の前に現れた。  何度か会って話をするうちに、私たちは徐々に親しくなり、彼女は小学校に入学する直前に両親から虐待を受けて殺され、森に捨てられたことを私に打ち明けてくれた。  彼女が話してくれた残酷な事実を思い出しながら、懐中電灯を照らして奥へ進む。  静まり返った前方を注意深く照らし続ける。  ある程度進んでから、ズボンのポケットからスマホを取り出して時刻を確認すると、23時45分だった。  彼女は0時を過ぎた頃に現れる。  今日は彼女にプレゼントを渡す約束をしていて、彼女の喜ぶ顔を想像しながら歩き続けた。  私は彼女の辛さに共感することができる。  実際に親に虐待された経験を持つ私なら、彼女の心情に寄り添うことができるはずだ。  ようやく到着して時刻を確認すると、0時05分だった。  廃墟は古さを感じさせず、誰かが頻繁に訪れたり住んでいたりするのではないかと思わせる。  しかし実際には、彼女の家族が去ってからは誰も住んでいたことはない。  彼女が話してくれたから知っている。  玄関のドアを見つめながら、彼女の現れるのを焦らずに待つ。  すると、ゆっくりとドアが開き始め、突如として彼女が現れ、「お願いしたプレゼント持ってきた?」と不安げに尋ねた。  私は「もちろんだよ」と答え、リュックから大きな赤いリボンが付いたビニール袋を取り出し、彼女の立っている付近の地面に置いた。 「わあ、嬉しい!」  彼女は両手を合わせて喜んだ。  しかし、彼女はプレゼントに触れようとしても触れることができず、泣きそうな顔をした。  そこで私は彼女を落ち着かせるために「今、開けるから泣かないでね」と、できるだけ穏やかな口調で話しかけて袋の中からプレゼントを取り出した。 「わあー!」  彼女は飛び跳ねて喜んだ。 「気に入ってくれた?」  私は訊いた。 「もちろんだよ! お兄ちゃん、これからもよろしくね。これからも、たくさんの友達を連れてきてね。私、お兄ちゃんと友達で本当に嬉しい!」  彼女は、似た境遇を持つ虐待されていた女の子の遺体と私を交互に見ながら、無邪気な笑顔で言った。 「ああ、約束するよ」  彼女の笑顔が見られるのなら、どんな手段を使ってでも必ず約束を果たそうと思った。    (了)
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