黙示録

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黙示録

 千年前、悪魔、魔物、魔女……闇より出づる魔性の者がセントキャヴィンの地を混沌へ陥れた。  世界の創造主──すなわち神ルクレーティアは嘆き、その〝涙〟で生ある者への慈悲からなる真白なる聖女をお作りになった。  神の涙には浄化と癒しの力があり、真白なる聖女はその力で魔を祓い彼の地に光をもたらした。  だが、神は闇の者への愛もお忘れにならなかった。その〝血〟で死者や魔性の者への慈悲からなる闇出づる聖女をお作りになった。  神の血には闇の存在を感じ、鎮める力があり、闇出づる聖女はその力で魔性の者の怒りや悲しみを鎮め、再び闇が暴れ出さぬよう陰で彼の地を守った。  天より落ちたふたりの聖女は役目を終えると、地上に残った。そのうち真白なる聖女はその力の性質から、人々に慕われ、聖女と崇められた。地上の人間と子を成し、その血に流れる神の涙の加護を白のルクティアと名付け、代々受け継がれている。その血統を受け継ぐモナハート家の女たちは例外なしにルクティアを宿し、彼の家の長女は千年に渡り教会で聖女となり君臨したが、時を重ね、血が薄まると、ルクティアも弱まっていった。  対する闇出づる聖女の辿った運命は悲惨なものであった。闇の者を見守る不吉な存在として、異端や魔女、悪魔……さまざまな呼ばれ方で迫害され、最期には処刑された。黒のルクティアを受け継ぐ闇出づる聖女の血は、そのときに途絶えている。  そうして人々の記憶の中から、闇出づる聖女の存在は忘れ去られていった。真白なる聖女の英雄譚だけが語られ、後世に残った。  けれど、神は再び災厄が起こるとき、彼の聖女を遣わすであろう。光と常にともに在る闇の心理を知り、それでいて無垢であり続けられる闇出づる聖女を。光に等しく闇が必要であるように、闇出づる聖女もまた救世主であるのだから。 聖書【ルクレーティア黙示録】
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