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変な気分だった。自立した大人で、母さんの結婚相手で、同居人で……そんなベールを一枚一枚、誠司さんの方から外してくれて、現れたのはただ心細く震えている人だった。
「俺も同じです」
誠司さんと目が合う。
「母さんのために『片親でもしっかりした子だ』って言われたくて頑張ってきたのに、誠司さんが来て……きっと居場所をとられた気がしていたんだと思います。そう感じた人と、これからやっていけるか不安だった」
誠司さんは俺の目を見て、大きく何度も何度も頷いてくれた。
「武春君」
「はい」
「こんな情けない奴でも、家族でいてくれるだろうか」
向かいに座る大人は大きくて、真剣な顔で、でも瞳の奥に不安そうな誠司さんが見えた気がして、俺は頷いた。その気持ちは俺の中にもある。
やっていけそうな気がした。
「よろしくお願いします。俺もそうしたいです」
「……うん、ありがとう」
誠司さんは何度かまばたきした後、「ああそうだ、ちゃんと言ってなかった」と居住まいを正して、手を合わせた。
ぱぁん! と気持ちのいい音がした。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
そう言って誠司さんは笑った。実はおいしくておかわりしたかったけど、話が終わってからと思って我慢していたらしい。
俺は誠司さんの皿を取り、席を立った。
パスタは、茹でればまだある。
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